円安シナリオに黄色信号?円高リスクをどう見るべきか~金融市場の動き(9月号)

2015年09月04日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

【要旨】

  1. (為替) ドル円レートは、一時116円台にまで円高が進行、足元も119円台に留まっている。今回のショックはドル円のシナリオにどのような影響を与えるのであろうか。まず、当面円安が進みにくくなったものの、今後の円安ドル高シナリオ自体は不変と筆者は考えている。米国が遠からず利上げに向かう可能性が引き続き高いためだ。一方、可能性は低いが、今後円高が進み、定着するというシナリオがあるとすれば、中国情勢が世界に甚大な悪影響を及ぼし、米利上げが見通せなくなるときだ。この際のドル円への影響を米2年債利回りをもとに試算すると、利上げがほぼ織り込まれていないレベルまで同利回りが低下した場合でも、ドル円レートの下落幅は6.8円に留まる。現実問題としても、円高が定着しそうになれば、日銀の追加緩和観測が高まることで円の上昇は抑えられるはず。従って、米国がQE4に向かうようなことがない限り、110円を超えるような円高が定着する可能性は低いだろう。ただし、一時的に大きく円高に振れるリスクは従来よりも高まっており、しばらく続くだろう。根本にある中国経済の下げ止まりが当面期待しづらいためだ。また、最近は高速取引によって市場の変動が増幅しやすいだけに、定着こそしないものの、24日の円急伸劇のような事態が再び起こる可能性はある。
  2. (日銀金融政策) 日銀は8月の決定会合で金融政策を維持した。総裁は中国や生産といった懸念材料を一蹴する一方、物価目標達成に関しては若干前後する可能性に言及した。
  3. (市場の動きと予想) 8月は中国不安を受けて、ドルに対して円とユーロが急伸。長期金利はやや低下した。しばらくは市場のリスク回避姿勢が残ることから、ドルに対する円安・ユーロ安は進みにくいと見ている。長期金利も低位で推移すると予想。

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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