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貿易統計25年8月-関税引き上げの影響が顕在化し、米国向け自動車輸出が数量ベースで大きく落ち込む

2025年09月17日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.貿易収支の赤字幅は事前予想を下回る

財務省が9月17日に公表した貿易統計によると、25年8月の貿易収支は▲2,425億円の赤字となったが、赤字幅は事前の市場予想(QUICK集計:▲5,223億円の赤字、当社予想は▲2,476億円の赤字)を下回った。輸出は前年比▲0.1%(7月:同▲2.6%)と4ヵ月連続で減少したが、輸入が前年比▲5.2%(7月:同▲7.4%)と輸出の減少幅を上回ったため、貿易収支は前年に比べ4,689億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲3.9%(7月:同1.2%)、輸出価格が前年比3.9%(7月:同▲3.7%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比▲0.1%(7月:同4.0%)、輸入価格が前年比▲5.1%(7月:同▲11.3%)であった。
季節調整済の貿易収支は▲1,501億円と6ヵ月連続の赤字となったが、7月の▲2,928億円から赤字幅が縮小した。輸出が前月比▲0.1%の減少、輸入が同▲1.6%の減少となった。

25年8月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=72.2ドル(当研究所による試算値)と、7月の71.4ドルから若干上昇した。足もとの原油価格(ドバイ)は70ドル程度で推移しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は当面70ドル台前半で推移することが見込まれる。

2.米国向け自動車輸出は数量ベースで大きく落ち込む

25年8月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲12.0%(7月:同▲2.3%)、EU向けが前年比0.0%(7月:同▲3.7%)、アジア向けが前年比▲4.7%(7月:同2.2%)、うち中国向けが前年比▲12.4%(7月:同▲0.3%)となった。
25年8月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲5.0%(7月:同▲3.0%)、EU向けが前月比2.6%(7月:同▲5.2%)、アジア向けが前月比▲2.1%(7月:同▲3.4%)、うち中国向けが前月比▲4.9%(7月:同▲0.9%)、全体では前月比▲2.0%(7月:同▲3.6%)となった。

25年7、8月の平均を4-6月期と比較すると、米国向けが▲5.7%、EU向けが▲2.3%、アジア向けが▲2.3%、中国向けが▲2.9%、全体が▲3.0%となっている。

いずれの地域向けも低調だが、特に米国向けの輸出が弱い。自動車を中心に関税引き上げの影響が顕在化し始めたと考えらえる。
 
25%の追加関税が課せられている米国向け自動車輸出(金額)は前年比▲28.4%(7月:同▲28.4%)となった。輸出価格は前年比▲20.9%(7月:同▲26.1%)と減少幅が縮小したが、輸出数量が7月の前年比▲3.2%から同▲9.5%と減少幅が大きく拡大した。なお、輸出価格の減少幅が縮小したのは、自動車メーカーの輸出価格の引き上げによるものではなく、前年と比べたドル円レートが7月までの円高から8月は若干の円安に振れたためである。
米国向け自動車輸出は、輸出価格の大幅な引き下げによって関税引き上げ後も数量ベースでは横ばい圏で推移してきたが、ここにきて減少傾向が鮮明となっている。米国向け自動車の輸出価格は契約通貨ベースでは5月以降、前年比で▲20%程度のマイナスとなっているが、日本の主要自動車メーカーが米国での販売価格を引き上げたことにより、日本車の米国車に対する相対価格が上昇(価格競争力が低下)した。

自動車関税は27.5%から15.0%に引き下げられたが、元々の2.5%と比べれば依然として大幅な引き上げであることに変わりはない。米国向け自動車輸出は価格競争力の低下を主因として、先行きも数量ベースでの減少が続く可能性が高い。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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