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IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(15)-19の国・地域からの61社に-

2025年10月02日

(中村 亮一) 保険計理

1―はじめに

各国・地域の保険監督当局等によるIAIGs(国際的に活動する保険グループ)の指定を巡る状況については、これまでの保険年金フォーカスで適時報告してきた。

例えば、2023年には、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(7)-52のIAIGsを指定-」(2023.2.24)、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(8)-3社が新たに追加されて、IAIGsは55社に-」(2023.11.7)、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(9)-IAIGsは19の国・地域からの56社に-」(2024.1.15)を報告した。また、2024年に入ってからは、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(10)-IAIGsは19の国・地域からの57社に-」(2024.2.16)、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(11)-住友生命が新たにIAIGに指定されてIAIGsは19の国・地域からの58社に-」(2024.7.31)及び「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(12)-新たに2社が指定、1社が指定解除されてIAIGsは18の国・地域からの59社に-」(2024.11.19)を報告した。さらに、2025年に入ってからは、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(13)-新たに1社が指定されてIAIGsは19の国・地域からの60社に-」(2025.6.5)、「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(14)-19の国・地域からの60社全てのIAIGsのグループ名が公開された-」(2025.7.3)を報告した。

今回、IAIS(保険監督者国際機構)は、IAIGsの指定に関する情報を更新しているので、その内容を報告する。

2―IAIGsとは

2―IAIGsとは

まずは、これまでのレポートの繰り返しになるが、IAIGsについて説明しておく。

IAIGsというのは、英語で「Internationally Active Insurance Groups(国際的に活動する保険グループ)」と呼ばれており、その言葉通りに、「国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループ」のことを指している。その具体的な選定基準については、IAISが定量的基準等を定めている。また、IAIGsに対しては、特別な監督・規制が行われることになっている。
1|IAIGs の選定基準
IAIGs の選定基準のうちの定量的基準は以下の通りとなっている。
 

(1) 国際的活動
・3つ以上の管轄区域において、保険料が計上されていること、及び
・本店所在管轄区域外のGWP(Gross Written Premium:総収入保険料)のグループ全体のGWPに対する割合が10%以上

(2) 規模(3 年移動平均)
・総資産が500 億米ドル以上、又は
・全体のGWPが100 億米ドル以上


ただし、これらの定量的基準に関わらず、グループ全体ベースでIAIGs の監督に対して責任を有しているGWS(グループ全体の監督者)が、限定された状況において、グループがIAIGs とみなされるかどうかを判断するための裁量権を有している。例えば、(a)自国の保険事業活動が重大である場合、(b)合併及び買収あるいは売却等により、近い将来に基準を満たすあるいは満たさなくなる場合、等が想定されている。
2|今回のIAIGs の指定に関する情報の公表
GWSが、IAIGs の指定を公表するが、場合によっては、この開示が法的変更又は規制措置を必要とすることがある。

IAISは、このコミットメントを達成するためのGWSの進捗状況を監視する。IAISは、GWSによって公開されたIAIGs の公開登録を編集する。登録簿には、公開されたIAIGs の数とIAIGs の基準の充足又は監督裁量の行使に基づいてGWSにより特定されたIAIGs の総数を比較した情報が添付されることになっている。
3|IAIGsに対する監督・規制
IAIGsの監督のための共通の枠組みとして、IAISは、2019年11月に、ComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループの監督のための共通の枠組み)を採択している。

このComFrameの中で、IAIGs に対する監督・規制内容としては、(1)監督当局の枠組み(監督カレッジの組成や危機管理グループ(CMG)の設立)、(2)資本規制、(3)再建・破綻処理計画、(4)グループガバナンス、(5)ERM(統合的リスク管理)、等が挙げられている。

また、2024年12月には、ComFrameの改定が行われ、ICP(保険資本基準)に関する規定等が追加されている。

3―IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報

3―IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報

IAISは、IAIGsの指定に関して、2025年9月22日時点での情報の更新1を行っているので、ここではその内容を報告する。
1|今回の情報更新に基づいて、IAIGsに指定された保険グループの状況
今回の情報更新では、米国からの1社(W.R.Berkley Corporation)が新たにIAIGとして指定されたことが公表されて、全体で19の国・地域からの61社がIAIGsに指定されたことになった。

その管轄区域別の内訳は、以下の図表の通りとなっている(下線部が前回のレポートの報告からの変更箇所である)。
2|W.R.Berkley Corporationについて
今回、新たにIAIGに指定されたW.R.Berkley Corporation は、米国のDelaware州が本籍でConnecticut州に本社を置くスペシャルティ保険等に強みを持つ大手保険会社である。ニューヨーク証券取引所に上場し、Fortune 500企業で、S&P 500にも選ばれている。

英国、欧州大陸、南米、カナダ、メキシコ、スカンジナビア、アジア、オーストラリアで商業保険事業を運営し、米国、英国、欧州大陸、オーストラリア、アジア太平洋地域、南アフリカで再保険事業を展開している。

2024年のAnnual Reportによると、2024年の正味収入保険料は11,972百万ドル、2024年末の総資産は40,567百万ドルとなっている。

2025年3月に、MS&AD Insurance Group Holdings Inc.の子会社の三井住友海上火災保険株式会社がW.R.Berkley Corporationの創業家と提携・協力関係を結ぶとともにW.R.Berkley Corporationに出資する(発行済普通株式の15%を取得する)ことを公表している。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、IAISによるIAIGsの指定に関する最新情報について報告してきた。

これまでのレポートで述べてきたように、IAIGsの指定グループの数は、それぞれの国や地域における保険市場や保険グループの海外展開の状況、さらには保険監督当局のスタンス等を反映して、それぞれの国・地域自体の保険市場の規模や一般的に認識されている大規模な保険グループの数等とは必ずしもリンクする形にはなっていない。

なお、IAIGsの指定については、適宜見直しが行われていくことになっている。

買収や合併、さらには売却等の地域別の事業展開の見直し等のグループ会社の戦略や以前のレポートで報告したPrudentialやAegonに見られるようなグループの再編等に伴うグループ本社の管轄区域の変更等に伴って、IAIGsのリストへの新たな追加や削除等が行われていくことにもなる。

各管轄区域においては、今後も適宜、IAIGsの指定の見直し等が行われていくことが想定されることになる。

IAIGsの指定に関する状況は、IAIGsに対する監督・規制を巡る状況と共に、関係者の関心の高い事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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