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資金循環統計(25年4-6月期)~個人金融資産は2239兆円と過去最高を更新、投信・国債・定期預金への資金流入が目立つ

2025年09月18日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

1.個人金融資産(25年6月末):前年比22兆円増、前期末比39兆円増

2025年6月末の個人金融資産残高は、前年比22兆円増(1.0%増)の2239兆円となった1。残高はこれまでの最高であった昨年10-12月期を上回り、過去最高を更新した。年間で見た場合、資金の純流入が15兆円あったうえ、株価がやや上昇したことで時価変動2の影響がプラス7兆円(うち国内株式等がプラス16兆円、投資信託がプラス1兆円)発生し、資産残高を押し上げた。

次に四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(3月末)比で39兆円減と大きく増加した。例年、4-6月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金の純流入が進みやすい傾向があり、今回も11兆円の純流入となった。さらに、この間に株価が大きく上昇したことで、時価変動の影響がプラス28兆円(うち国内株式等がプラス18兆円、投資信託がプラス7兆円)発生し、資産残高を大きく押し上げた(図表1~4)。
ただし、6月にかけても物価の高い伸びが続いたため、その分だけ個人金融資産の実質的な価値(購買力)は目減りしている。一年間の物価上昇の影響を加味した実質ベースの個人金融資産の伸びは前年比2.7%減と4四半期連続のマイナスが続いている(図表5)。日本の個人金融資産はゼロもしくは低金利の現預金が全体の過半を占めているため、物価上昇に弱い構造にある。
なお、家計の金融資産(グロス)は、既述のとおり4-6月期に39兆円増加したが、この間に金融負債が3兆円減少したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は3月末比で42兆円増の1841兆円となっている(図表6)。
 
足元の7-9月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年、資金の純流出が滞る傾向がある。ただし、6月末以降、株価が大幅に上昇していることから(図表4)、時価変動の影響は大幅なプラスに寄与しているものと推測される。

従って、9月末にかけて株価やドル円が足元に対して横ばい圏で推移すれば、9月末時点の個人金融資産残高は6月末時点の残高を上回り、過去最高を更新する可能性が高い。
 
1 今回、2024年4~6月期以降の計数が遡及改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.家計の資金流出入の詳細:投信・国債・定期預金への流入目立つ

4-6月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表7)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(6.6兆円)となった。ただし、純流出の規模は前年同期(8.5兆円)や一昨年同期(11.6兆円)を下回っている。

現預金の内訳では、流動性預金(普通預金など)への純流入(4.9兆円)の鈍化が目立つ。純流入の額は昨年同期(12.0兆円)の半分以下に留まっている。インフレによる価値の目減り懸念を受けて、より金利の高い定期預金や個人向け国債、リスク性資産などへの資金シフトが生じたことが背景にある。日銀による利上げを受けて普通預金金利も引き上げられてはいるものの、金利水準が相対的に低いため、資金シフトに弾みがついているようだ。

一方、定期性預金(定期預金など)は2.2兆円の純流入と2四半期ぶりの純流入になった。2.2兆円という純流入額は2011年4-6月以来14年ぶりの規模にあたる。利上げを受けて定期預金金利の水準が引き上げられたことを受けて、主に流動性預金から一部資金が流入したり、満期到来分が再び定期預金として預け入れられたりしたことで純流入が進んだとみられる。
次に、リスク性資産等への投資フロー(時価の変動は含まない)を確認すると(図表7)、まず代表格である株式等が2.1兆円の純流出となった。もともと個人投資家は逆張り志向が強いことから、株価の上昇を受けた利益確定売りが優勢になったと推測される。

一方、投資信託は2.2兆円の純流入となった。株式同様、一部利益確定売りが生じたとみられ、純流入の規模は前年同期(3.2兆円)をやや下回るものの、新NISAの普及やインフレを追い風として、息の長い純流入が継続している。トレンドを見るために4半期累計フローを確認した場合でも(図表9)、投資信託への資金流入拡大は際立っている。

その他資産では(図表10)、確定拠出年金内の投資信託(0.3兆円の純流入)で堅調な純流入が続いているほか、国内預金よりも金利水準が高い国債(1.1兆円の純流入)への資金流入が目立つ。国債の純流入が1兆円を超えたのは、2007年7-9月期以来のこととなる。

新NISAの普及や長引くインフレが追い風として続くなか、税制優遇を受けやすい投資信託と金利が相対的に高い国債・定期預金への資金流入が目立っている。

3.その他注目点:家計は再び資金余剰に、日銀の国債保有割合は緩やかに低下

4-6月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表11)、民間非金融法人(企業)が0.3兆円の資金不足に転じた(前期は3.5兆円の資金余剰)一方、家計部門が2.5兆円の資金余剰に転じた(前期は1.8兆円の資金不足)。賃金上昇や夏季賞与の増加が寄与したものと推測される。ただし、家計の資金余剰額は従来よりも小幅に留まっている。インフレによる支出増や所得税・消費税の増加が引き続き圧迫要因になっているためと考えられる。

政府部門は3.7兆円の資金不足となった。好調な企業業績やインフレを背景に24年以降には資金不足が縮小傾向となり、今年1-3月期には資金余剰となっていたが、再び資金不足に転じた形だ。要因は不明だが、今後の動きに注目したい。

なお、海外部門は7.0兆円の資金不足(1-3月期は7.2兆円の資金不足)と引き続き大幅な資金不足であった。
6月末の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1198兆円と、3月末(1191兆円)から7兆円増加した。

最大の保有者である日銀の国債保有高は6月末時点で539兆円と3月末から8兆円減少した。昨年夏以降、段階的に長期国債の買入れ減額を進めていることが背景にある。この結果、日銀の保有シェアは45.0%と3月末(46.0%)をやや下回った(図表12)。日銀の保有シェアは2023年末をピークとしてごく緩やかな低下基調にある。ただし、このうち1年超の長期国債に限った場合の日銀のシェアは50.9%(3月末は51.7%)となっており、引き続き全体の過半を日銀が保有している点は変わらない。 

日銀は今年6月に見直し・延長を行った計画に基づいて、長期国債買入れの減額を続けていく。日銀の国債保有高が減少を続けていくなかで、今後どの投資家がどれだけ肩代わりをしていくのかが引き続き注目される。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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