NEW

グローバル株式市場動向(2025年8月)-米国の利下げ期待から堅調な推移

2025年09月12日

(原田 哲志) 株式

1――米国の利下げ期待から堅調な推移

2025年8月、世界の株式市場は上昇した。米国の利下げ再開観測による景気改善期待が株式市場を押し上げた。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2025年7月+2.4%、過去1年(2024年9月-2025年8月)では+14.1%となった(図表1)。

先進国と新興国を比べると、先進国が新興国を上回った。先進国(MSCI World Index)が+2.5%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が+1.2%となった(図表2)。
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+1.7%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が+3.1%とバリュー優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が+2.3%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が+2.5%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が+4.7%と小型株の騰落率が高かった(図表4)。
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別の動向はまちまちな結果となった(図表5)。主要国について見ると、米国(+1.8%)、中国(+4.9%)、ドイツ(+1.4%)、日本(+7.0%)となった。騰落率が高かった国・地域はコロンビア(+12.0%)、チリ(+11.2%)、ブラジル(+9.2%)だった。一方で、アルゼンチン(▲12.6%)、アラブ首長国連邦(▲4.7%)、ポーランド(▲4.1%)の騰落率が低かった。

米国ではFRBの早期利下げ期待が強まり、投資家心理が改善したことで上昇した。CPIの鈍化が利下げ観測を後押しした。さらに米中・米EU間の貿易政策の安定化も安心材料となり、リスクオン姿勢が広がった。

日本は円安や世界的な株高を背景に上昇した。また、米国による自動車関税引き下げで輸出企業への懸念が和らいだ他、ソフトバンクやソニーなどの好決算も上昇要因となった。

中国では米中貿易協議の休戦延長による安心感、政府の経済刺激策期待による株式市場への資金流入が背景となり上昇した。また、AI・半導体の国産化期待が関連銘柄を押し上げた。

コロンビアではインフレ率の低下と政策金利引き下げが続いていることを背景に株式市場へ資金が流入したことで上昇した。

アルゼンチンは政治不安や汚職疑惑から株式市場は下落した。大統領側近を巻き込むスキャンダルや10月の選挙を控えた政策不透明感が投資家心理を冷やしたことが下落につながった。さらに中央銀行が準備預金率を引き上げたことで市場は様子見姿勢を強め、株価下落へとつながった2
業種別に見ると、テクノロジー・ハードウェアおよび機器(+8.3%)、自動車・自動車部品(+8.0%)、耐久消費財・アパレル(+7.6%)の騰落率が高かった。一方で、ソフトウェア・サービス(▲3.8%)、商業サービス・用品(▲2.1%)、公益事業(▲0.6%)の騰落率が低かった(図表6)。
 
2 ロイター、「アルゼンチン中銀、預金準備率を50%近くに 選挙控え市場安定図る」、2025年8月27日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価はまちまちな結果となった(図表7)。時価総額上位30社までの企業では、 アップル(+12.0%)、アッヴィ(+11.3%)、アルファベット(+10.9%)のリターンが高かった。一方で、オラクル(▲10.9%)、SAP(▲5.2%)、マイクロソフト(▲4.9%)のリターンが低かった。

アップルは第三四半期決算でiPhone・サービス売上が予想超え、中国市場での販売も堅調だったことから上昇した。米国で総額6,000億ドル超の投資計画を発表し、政治リスク回避とAI・製造強化への期待が高まったことも上昇要因となった3

米マサチューセッツ工科大学(MIT)は「生成AIを導入した企業の95%が生成AIへの投資から何のリターンも得ていない」との調査結果を公表した4。この調査結果からAI投資の収益性への疑念が広がりオラクルをはじめとした多くのハイテク企業が下落した。また、オラクルはクラウド部門でのコスト増加や人員削減、幹部退任など経営の不透明感も下落要因となった。
 
3 日本経済新聞、「Apple、米国に追加投資15兆円 iPhone関税回避に市場期待」、2025年8月7日
4 日本経済新聞・フィナンシャルタイムズ、「AIバブル崩壊に備えよ 技術革命の歴史が示唆」、2025年8月27日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

世界の株式市場は米国の利下げ期待などから上昇した。この背景には、トランプ政権による米連邦準備理事会(FRB)への利下げ要求がある5。8月14日にはベッセント米財務長官が米連邦準備理事会(FRB)の政策金利を「1.5~1.75%下げるべきだろう」と具体的な水準について言及したことで為替市場はドル安円高に動いた6。ただし、翌日にはベッセント氏は「FRBに対してその水準を求めたわけではない」と前日の発言を軌道修正した。FRBは今後利下げを継続する見込みだが、利下げのペースや幅は政権の干渉に左右される可能性がある。

また、8月はこれまで上昇基調にあった半導体関連銘柄が下落した。米半導体大手のエヌビディアは8月27日引け後、2025年5-7月期決算を発表した。増収増益の好決算で業績見通しも市場予想を上回ったが、株価は下落した。対中規制により中国での売上が不透明となっていることが投資家に懸念されたと考えられる7。中国政府は国内企業に対して、エヌビディアの中国向け人工知能(AI)半導体「H20」の使用を控えるよう求めているとされており、半導体産業への米中の政策動向が今後も注目される。こうした要因の世界の株式市場への影響に引き続き注視したい。
 
5 日本経済新聞、「トランプ政権の利下げ圧力一段と 雇用下振れ、統計局改革も要求」、2025年9月10日
6 日本経済新聞、「米財務長官、1.5%利下げ「FRBに求めず」 前日発言を軌道修正」、2025年8月15日
7 Bloomberg、「エヌビディア決算、読めない中国売上高が波乱要因か-予想大きく乖離」、2025年8月27日

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、人的資本、老後資金

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)