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グローバル株式市場動向(2025年7月)-米国と日欧の関税大枠合意により安心感が広がる

2025年08月15日

(原田 哲志) 株式

1――米国と日欧の関税大枠合意により安心感が広がる

2025年7月、世界の株式市場は上昇した。米国のハイテク企業の堅調な業績、中国への米国の上乗せ関税の停止期間延長、日欧との関税交渉の大枠決定といった貿易協議の進展が株式市場を押し上げた。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2025年7月+1.3%、過去1年(2024年8月-2025年7月)では+14.2%となった(図表1)。

先進国と新興国を比べると、新興国が先進国を上回った。先進国(MSCI World Index)が+1.2%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が+1.7%となった(図表2)。
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+2.1%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が+0.4%とグロース優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が+1.4%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が+0.9%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が+1.0%と大型株の騰落率が高かった(図表4)。
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別の動向はまちまちな結果となった(図表5)。主要国について見ると、米国(+2.2%)、中国(+4.5%)、ドイツ(▲2.2%)、日本(▲1.7%)となった。騰落率が高かった国・地域はタイ(+14.0%)、エジプト(+11.9%)、パキスタン(+11.0%)だった。一方で、デンマーク(▲16.7%)、ブラジル(▲7.0%)、オランダ(▲6.5%)の騰落率が低かった。

米国では7月下旬のFOMCで市場予想通り政策金利の据え置きが決定されたことや米中をはじめとした各国との関税停止期間の延長、日欧との関税交渉の大枠決定といった貿易協定の進展から上昇した。ハイテク企業や半導体メーカーの好調な4-6月決算によって関連する光ファイバーやデータセンターなどの銘柄が買われたことも上昇要因となった。

日本では7月末の日銀の金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決定したことや円安による輸出関連企業の業績改善期待から円建てでは上昇となった。ただし、円安によりドル建てでは下落となった。

中国では米国の関税措置の停止期間延長や4-6月期GDP成長率が+5.2%と政府目標(+5%)を上回る堅調な拡大となったことから上昇した2

タイではインフレ率が安定的に推移したことから中央銀行が0.25~0.50%の利下げ余地があるとの金融緩和期待が高まったことから上昇した3

デンマークでは製薬大手ノボノルディスクが肥満症治療薬「ウゴービ」の売上伸び悩みから通期業績見通しを引き下げたことで株価は一時30%下落、ヘルスケア関連株などに波及し同国の株式市場は下落した4
業種別に見ると、不動産(+8.0%)、半導体・半導体製造装置(+6.3%)、小売(+4.0%)の騰落率が高かった。一方で、食品・飲料・タバコ(▲3.2%)、耐久消費財・アパレル(▲3.0%)、ヘルスケア機器・サービス(▲2.8%)の騰落率が低かった(図表6)。
 
2 Bloomberg、「中国経済4~6月は5.2%成長、予想上回る-輸出好調も消費減速」、2025年7月15日
3 ロイター、「東南アジア株式・中盤=おおむね上昇」、2025年7月17日
4 Bloomberg、「ノボノルディスクが通期予想を下方修正、減量薬が低調-株価急落」、2025年7月29日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価はまちまちな結果となった(図表7)。時価総額上位30社までの企業では、 オラクル(+16.3%)、パランティア・テクノロジーズ(+16.2%)、エヌビディア(+12.6%)のリターンが高かった。一方で、ネットフリックス(▲13.4%)、SAP(▲5.5%)、コストコホールセール(▲5.1%)のリターンが低かった。

米国のソフトウェア開発大手オラクルは6月に2026年度のクラウドインフラ部門の売上高が70%超増加するとの見通しを発表して以降上昇が続いている。7月15日には、欧州でのAIとクラウドサービスのインフラ強化のため、今後5年間で30億ドルを投資する計画を発表、AI・クラウド事業の拡大が期待されている5

ネットフリックスは2025年4-6月期決算を発表し、市場予想を上回る増収増益となったが、7-9月期には営業利益率が悪化する見通しを示したことを投資家は嫌気し下落した6。ストリーミング市場では、顧客の視聴時間獲得で競争が激化しており、同社のシェアは伸び悩んでいる7
 
5 ロイター、「オラクル、独とオランダに30億ドル投資へ AIとクラウド強化」、2025年7月16日
6 日本経済新聞、「NYダウ、一進一退で始まる 持ち高調整の売り先行」、2025年7月18日
7 Bloomberg、「ネットフリックス、売上高と利益が予想上回る-見通しも上方修正」、2025年7月18日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

世界の株式市場は米国と日欧との関税大枠合意により安心感が広がったことなどから上昇した。こうした中、7月29日にIMF(国際通貨基金)は世界経済見通しを公表した8。IMFは2025年の世界経済の成長率を+3.0%と予測、前回4月時点の予測から0.2%上方修正した。IMFは関税引き上げを見越した需要の前倒しが予想以上に強かったことや米国の平均実効関税率が4月に発表された水準よりも低くなったことを見通しに反映した。ただし、関税の税率が再び上がる可能性を下ぶれリスクとして指摘している。また、地政学的緊張によって一次産品の値上がりや財政赤字の拡大といったリスクを指摘している。

世界の株式市場は上昇が続くものの、関税による企業業績への悪影響は十分に織り込まれていないことも考えられる。米国と日欧との関税大枠が合意し貿易協議がひと段落した中、今後は企業業績や経済への影響が注目される。こうした要因の世界の株式市場への影響に引き続き注視したい。
 
8 国際通貨基金、「世界経済見通し改訂版 世界経済:不確実性続く中、レジリエンス希薄」、2025年7月29日

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、人的資本、老後資金

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

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