地方政府(省レベル)による運営が困難な場合、当局は民間の保険会社に対して、傷害の確認、労働能力の鑑定、給付金の検証などの業務を委託できるとしている
6。例えば北京市では、中国最大手の国有系生命保険会社である中国人寿(北京支店)が全国に先駆けて業務を受託し、北京市政府(行政部門(Public))と保険会社(民間(Private))が連携(Partnership)する官民パートナーシップ(PPP)方式で制度を運営している
7。習近平政権下では、これまでも公的介護保険(一部地域を除く)、公的医療保険の一部(都市・農村住民基本医療保険における大病医療保険)において、同様の官民連携による運営が採用されてきた。
中国人寿北京支店は、北京市内の8地区で職業傷害保障に関する業務を展開しており、事故の登録・調査、給付申請の受付け、傷害の確認、労働能力の鑑定、医療費・リハビリ費用・補助器具費用の給付審査、給付の検証、相談窓口の設置など、幅広い業務を代行している
8。給付手続きなどの効率化をはかるため、SNS「微信(WeChat)」上にグループを設置し、保険会社・ドライバー・プラットフォーム間のサービスプロセスを最適化している。ドライバーはオンライン上で全プロセスの進捗確認、必要書類の提出、政策に関する照会などが可能である。一方で、中国人寿は重傷や死亡など複雑な案件に対応するため、微信ミニプログラムを通じて顔認識、インタラクティブ動画、空中署名認証などを活用し、調査の全プロセスを可視化・追跡可能にすることで、リスク管理の向上をはかっている。
中国ではギグワークやフリーランスといった非正規労働が増加し、2023年時点でその数は2億人を超えている。特にフードデリバリーやライドシェアのドライバーなど、スマートフォンのアプリケーションを通じて業務を請け負う労働者はおよそ8,400万人(全就業者の21%)に達する。人力資源社会保障部によれば、2025年3月時点で職業傷害保障の加入者は1,104万人を超えており
9、試行地域は今後17地域まで拡大される予定である。
6 新華社によると、2024年8月時点では北京市、上海市、四川省などで官民連携によって運営されている。(出典)新華社「進展如何 効果怎様?-新就業形態就業人員職業傷害保障試点情況調査」2024年8月15日。
7 北京日報「政企協同破難題 北京市新業態職傷試点交出暖心答巻」2025年4月7日。
8 北京市は2024年6月末時点で89.7万人が加入している。(出典)北京市人力資源和社会保障局「北京市人力資源和社会保障局2024年市政府重要民生実事和政府工作報告重点任務二季度進展情況」、2024年7月18日。
9 人力資源和社会保障部「人社部発布:2025年一季度人力資源和社会保障工作主要進展情況及下一歩安排」2025年4月29日。
4――今後の課題と展望