欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況-

2025年04月25日

(中村 亮一) 保険計理

(参考)Prudential plc16
(1)全体の状況
2024年の新契約利益(New Business ProfitNBPは、2023年に比べて2 %減少(為替固定ベースでは11%増加)して、3,078百万ドルとなった。

新契約マージン(New Business Margin)(対PVNBP(=新契約利益/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2023年に比べて1%ポイント低下(1%ポイント低下)して10%となった。また、新契約マージン(対APEは、2023年に比べて3%ポイント低下(2%ポイント低下)して、50%となった。

新契約保険料現在価値(PVNBPは、2023年に比べて7%増加(8%増加)して30,612百万ドルとなり、新契約年換算保険料(APEは、6%増加(7%増加)して、6,202百万ドルとなった。
 
16 Prudentialについては、2019年10月に、アジアと米国で保険事業を展開するPrudential plcと欧州で保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、さらに、Prudential plcは、2021年9月に米国事業であるJackson Financial Inc. をグループから分離した。その意味で、Prudential plcは欧州の保険会社ではないが、アジアにおいて重要な位置付けを有している会社であることから、(参考)として、その数値を掲載している。
(参考)新契約利益とIFRS第17号新契約CSMとの調整
新契約利益は、EEV(European embedded value)原則に従って計算され、その年に販売された契約につき、税引後ベースで表示されている。新契約利益とIFRS新契約CSMとの調整については、以下のように説明されている。

(1) EEV は、リスク割引率でリスクを考慮した上で保有される実際の資産の期待収益に基づく「リアルワールド」の経済前提を使用して計算される。IFRS第17号では、「リスクニュートラル」の経済前提を適用して、資産は収益を得ることが想定され、キャッシュ・フローはリスクフリー+流動性プレミアム(該当する場合)で割り引かれる。どちらの指標も、現在の金利に基づいて期末ごとにこれらの前提を更新する。

(2) EEVでは、既存契約に付随する追加又は新規特約、商品アップグレード及び追加から生じる新契約利益は、当期の新契約利益として報告される。IFRS第17号では、そのような特約の販売やアップグレードによる新契約利益は、既存契約の経験差異として扱うことが求められている。

(3) IFRS第17号の新契約 CSMは税引前、EEVの新契約利益は税引後。 したがって、IFRS第17号の新契約CSMにかかる関連税が再度追加される。以下の図表の他の全ての調整項目は、関連税を除いて表示されている。
(2) 新契約年換算保険料(APE)の地域別内訳
Prudentialは、アジアの主要各国・地域において、有意なAPEを計上してきている。2024年は、APEが為替固定ベースで7%増加して、6,202百万ドルとなった。

Prudentialにとって、新契約利益とEV(エンベディッドバリュー)で、過去において最も重要な市場は香港だったが、2020年の業績が、香港の中国本土の個人への販売が中国本土との国境の閉鎖により大幅に減少したことから、大きな影響を受けた。地域別のAPEでは、2021年からは中国に抜かれ、2022年において香港はシンガポールに次いで第3位となっていた。ところが、2023年には香港での業績が、パンデミック関連の制限が全て解除されたこと、特に中国本土との国境が再開されたことを受けて、地域や中国本土からの需要を推進力として、大幅に向上したことから、再びトップに返り咲いた。2024年も引き続き全体の3分の1を占めてトップとなっている。

なお、各地域における市場シェアやランキングの状況については、前回のレポートで報告している。

2023年との比較では、香港において、2023年に、多様なチャネルと商品を通じて、2022年の4倍近くの新契約APEとなっていたが、2024年も引き続き5%弱の進展となっている。また、台湾では2023年に大幅に進展したが、2024年も2割を超える成長となり、その他に、シンガポール、タイ、インドでも二桁成長した。一方で、ベトナムにおいては大幅なマイナス進展となり、インドネシアやフィリピンでも前年を下回った。

なお、中国本土での事業は、中国国営のリーディング・コングロマリットであるCITICとの50/50のジョイント・ベンチャーであるCPLで行われている。2023年の銀行窓販チャネルの経費管理に関する規制改革の影響を引き続き受けていることもあり、APEは7%減少した。
(3) 新契約マージン等の地域別状況 
新契約利益(NBP)、APE、PVNBP、新契約マージン(対APE)及び新契約マージン(対PVNBP)の地域別状況は、次ページの図表の通りである。

NBPでは、香港がトップで、第2位がシンガポール、第3位がマレーシアとなっている。2023年に比べて、香港では若干増加、シンガポールでは二桁進展したのに対して、2023年まではトップ3に入っていた中国は前年の半分となって、インドネシアに次ぐ第5位となっている。

香港では、2024年に販売の勢いが加速したことと、保障及び医療事業の割合が増加したことによる利益率の向上が貢献している。香港では引き続き質の高い成長が見られ、中国国内及び中国本土からの訪問者からの需要の潜在的な原動力が継続している。中国本土のマクロ経済環境、特に長期国債利回りの大幅な低下は、2024年に中国本土の生命保険産業にとって重要な課題となり、この状況は2025年まで続くと予想されている。なお、マレーシアでは、APEが6%増加したにもかかわらず、チャネルミックスの変化が利益率の低下につながったため、NBPは4%減少した。ベトナムでは逆風が続いているが、その他は、インド、タイ、台湾、アフリカでの力強い成長に牽引されて、大きく進展している。

なお、Prudentialは、中国(持株会社CPLを通じて)、香港(マカオ支店を含む)、台湾の中華圏(Greater China region)において、大きなプレゼンスを有しているが、保険料収入が13,970百万ドルでグループ全体28,265百万ドルの49%、NBPが1,844百万ドルでグループ全体3,078百万ドルの60%を占めており、グループ内での中華圏の位置付けが極めて高くなっている。
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