ただし、日本の大手各社が公表している経営計画等によれば、今後海外事業からの収益を拡大していく方向性が示されてきており、実際に2024年に入ってからも、以下のような動きが見られている。
・日本生命は、2024年12月10日に米国のCorebridge Financialの21.6%の株式取得を完了して関連法人等となったことを公表し、さらに2024年12月11日にバミューダのRezolution Lifeを完全子会社化することを公表している。
・第一生命HDの米国子会社のProtective Lifeは、2024年10月31日に米国で団体保険事業を展開するShelterPoint Groupの買収手続きを完了したこと、また、豪州子会社TALが傘下に年金保険事業及びファンドマネジメント事業を有する豪州の金融グループであるChallenger Limitedの発行済み株式数15.1%を800億円で取得することを公表している。
・明治安田生命は、2024年8月14日に米国子会社のStanCorp Financial Groupが米国大手損害保険会社The Allstate Corporationの任意加入型団体保険事業を営む保険子会社を含む2社の買収に合意したこと(2025年第1四半期を目途に買収手続き完了予定)、2024年12月13日にポーランドのWarta GroupとEuropa Groupの株式をドイツのTalanx AGに譲渡すること、2025年2月7日に英国の大手金融サービス会社Legal & Generalとの戦略的業務提携、及び米国生命保険会社Banner Lifeを傘下に有するLegal & Generalの米国持株会社であるLegal & General America,Inc.の全株式取得等を公表している。
・住友生命は、2024年3月18日にSingapore Life Holdings Pte.Ltd.の完全子会社化が完了したことを公表している。
また、脚注の17で述べたように、
・T&D Holdingsは、2025年3月21日に、子会社のT&D United Capital(TDUC)を通じて、ドイツのクローズドブック生命保険統合会社であるViridium Groupに出資するとプレス発表をして、本取引完了により、TDUCはコンソーシアム投資家の中で最大となる 29.9%の持分を取得し、ViridiumがT&D Groupの持分法適用関連会社となる、ことを公表している
32。
このようにクローズドブロック(新契約獲得を停止(ランオフ)した商品の保有契約群団)
33統合会社やPE(プライベートエクイティ)会社との関係のある(再)保険会社といった、近年注目を浴びてきたビジネスモデルや形態を有する会社への出資や買収も行われるようになってきており、監督・規制への適切な対応等を含めて、よりきめ細かで厳しい子会社経営管理が求められるようになってきている。
こうした海外事業展開を進めていく上では、グループでのガバナンスやリスク管理、有効な資本政策のあり方等いろいろな意味で、欧州の大手保険グループの先行的な事例に学ぶべきことは多いものと考えられる。
例えば、欧州大手保険グループの海外事業戦略においては、一方的に事業地域の拡大を図るだけではなく、各国の保険市場の特性等を分析する中で、収益状況や成長可能性等を見極めながら、コア事業となりうるものに集中し、コアでない市場からは速やかに撤退する等の方針が明確に示されており、実際にその方針が迅速・果敢に実行されてきている。
単純な規模やプレゼンスの拡大を目指して、グローバル展開を進めるのではなく、自社の強みを十分に認識した上で適時適切な判断を行っていくことが求められてきている。既存保険会社の買収を通じて海外事業を展開していく場合においては、買収に伴うプレミアムに見合うリターンをいかに獲得していくのかについて、会社の方針・戦略をより一層明確化していくことが重要になってきているものと思われる。
また、海外事業展開を進めていく上では、買収先や出資先の会社の経営陣等の現地事業に精通した人材の確保に加えて、会社自体に、それぞれの国や地域の社会・文化的な状況等に応じて柔軟に対応できるコミュニケーション能力等を有するグローバルな人材をいかに育成していくのかということが重要な課題になってきている。
いずれにしても、海外のグループ会社を実効的に管理していくための堅固なグループガバナンス体制の構築等が喫緊の課題になってきている。
加えて、グローバルに事業展開を進めていく上では、国際的な保険資本規制や国際的な保険会計基準の適用への対応も問われてくることになる。日本と米国はともかくとして、欧州やアジア・太平洋地域においては、基本的にはこうしたグローバルな規制の動きに対応したローカルの規制の見直し等も行われてきている。欧州大手保険グループは、こうした世界各国の規制の動向等も踏まえた上での、ビジネス戦略を構築し、必要に応じて、会社の移転や分割等も行ってきている。
日本の生命保険会社は、こうした世界における監督規制の動向及びそれらを通じての日本の監督規制への影響も踏まえつつ、さらにはグローバルな保険会社の経営戦略等も見据えつつ、海外事業の積極的な展開に向けた戦略や体制を構築していくことが求められてきている。
以上、ここまで、2024年における欧州大手保険グループの海外事業展開の状況を報告するとともに、これらを踏まえての日本の生命保険会社にとっての示唆について考えてきた。
欧州大手保険グループは、ある意味、最も先駆的にこれらの課題に取り組んできていることから、今後もこうした会社の戦略や方針は、今後のグローバル展開を考えていく日本の生命保険会社にとって、いろいろな点で大変参考になるものがあると思われる。今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
32 T&D Holdingsは、2019年11月26日に、子会社のT&D United Capital(TDUC)を通じて、米国のAIGからクローズドブック専業保険会社であるフォーティテュードの持分25%を約637億円で取得することに合意したと発表し、2019~2021年度中期経営計画において、「クローズドブック事業」を有力な新規事業領域の一つと位置付け、戦略的パートナーとしてフォーティテュードに資本参画することで収益源泉の多様化を図っていくと述べていた。その後、T&D Holdingsは、2022年3月31日にTDUCを通じてFGH Parent(旧フォーティテュード)に約643億円の追加出資をする(出資比率の25%は変わらない)と発表している。
33 各社のプレスリリース資料等で使用されているように、「クローズドブック」という言い方もされる。