欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析-

2025年04月14日

(中村 亮一) 保険計理

7|Prudential
以前のPrudential plcは、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plc27と欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plc28に分割された。さらに、Prudential plcは、2021年1月に、2021年第2四半期に米国事業であるJackson Financial Inc.29をグループから分離することを決定した、と公表し、2021年9月20日に分離を完了したと発表した(なお、Jackson National Groupは、2024年末の認容資産で、米国の生命保険・医療保険グループで第9位(2023年末も第9位)14となっている)。

現在のPrudential plcは、高成長のアジアとアフリカの24の市場(アジアでは16カ国、アフリカでは8カ国(カメルーン、コートジボワール、ガーナ、ケニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ナイジェリア))で、生命保険、医療保険及び資産管理等の事業を展開している。

なお、M&G plcは英国と欧州を中心とした市場で事業展開している。

また、Prudential plcは、2027年までの主要な財務目標として、(1)新契約利益30の2022年の達成水準から2027年までのCAGRで15%~20%の進展、(2)2027年に、保険及び資産運用事業から少なくとも 44 億ドルの営業フリーサープラスを創出、を掲げている。

Anil Wadhwani CEOは、2024年決算発表時に「アジア・アフリカ市場に内在する長期的な成長トレンドが再び現れ、当社にとって大きなチャンスを生み出している。アジアにおける保険普及率は低く、特に高所得のアジア市場において、ウェルス管理や退職計画の必要性とともに、市場全体で長期貯蓄や保険商品に対する需要が継続し、その需要は高まっている」と述べている。
 
27 分離後のPrudential plcは、英国に本社を置き、ロンドン証券取引所でpremium listingされ、香港でprimary listingされ、ニューヨークとシンガポールに上場している会社となる。また、英国又は欧州の顧客を持たないため、ソルベンシーII制度の対象外となる。
28 M&G Prudentialのグループ監督者は、英国の保険監督当局であるPRA(健全性規制機構)となっている。
29 Jackson Financial Inc。(JFI)は、米国の持株会社で、Jackson Holdings LLC(JHLLC)の直接の親会社となる。
JHLLCの間接的な完全所有子会社に、Jackson National Life Insurance Company及びPPM America.Incが含まれる。
30 「新契約利益」については、例えば、基礎研レポート「欧州大手保険Gの2023年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況-」(2024.5.16)で説明しているので、こちらを参照していただきたい。
(1) 地域別の業績-2024年の結果-
Prudentialは、中華圏、ASEAN諸国、インド、アフリカの成長市場に焦点を当てており、10のアジア市場と3つのアフリカ市場でトップ3の地位を占めている。特に、香港の位置付けが最も高く、シンガポールがこれに次いでいる。その他に、中国、インドネシア、マレーシアの位置付けが高くなっている。

なお、PrudentialのCSM残高は、2024年末は224億61百万ドル(再保険控除後 219億60百万ドル)、2023年末は223億52百万ドル(再保険控除後 210億12百万ドル)、2022年末は213億4百万ドル(再保険控除後 199億89百万ドル)となっている。

また、M&G plcのCSM残高は、2024年末が60億33百万ポンド、2023年末が54億83百万ポンド、2022年末が57億16百万ポンドとなっている。Jackson FinancialはIFRS(国際財務報告基準)ではなく、米国会計基準を採用している。
(2) 地域別の業績-2023年との比較-
Prudentialは、新契約利益、IFRS調整後営業利益、営業フリーサープラスの創出という3つの主要な財務実績指標を通じて、財務の進捗を報告している。

新契約利益(経済的影響を除く)は、2023年の47%の成長に続き、11%増加した(新契約利益については、次回の基礎研レポートで詳しく報告する予定である)。保有中の保険及び資産管理事業から生み出された営業フリーサープラスは、前年に比べて2%減少して26億42百万ドルとなった。これは主に、新型コロナウイルス感染症関連の規制の影響を受けた、特に2019年から2022年にかけての売上高の減少を、2024年に回復したことを反映している。さらに、10億ドルの投資プログラムの一部である1億7500万ドルを含め、業務遂行の改善と顧客ニーズへの対応に投資した。

(調整後税引前)営業利益31は、保険事業が6%(為替固定等ベースでは7%、以下同様)、資産管理事業のEastspringが9%(10%)増加したことで、8%(10%)増加して31億29百万ドルとなった。

地域別の営業利益をみると、中国ではほぼ横ばいだったが、インドネシア、マレーシア、シンガポールでは二桁進展している。

PrudentialのCSM残高(再保険控除後)は、4.5%増加して2024年末に219億60百万ドルとなった。新契約の貢献が25億96百万ドル、保有契約収益が17億31百万ドルに対して、CSMリリースが23億52百万ドル、経済等変動が▲6億71百万ドル、為替の影響が▲3億56百万ドル、となっている。

なお、M&G plcの(調整後)営業利益は、資産運用部門が19%増加と大きく貢献したことと、生命保険部門及びコーポレート・センター部門の安定した業績を反映して5%増加した。また、Jackson Financialの営業利益は、変額年金運用資産残高の増加やスプレッド収入の増加等により、44%と大きく増加した。
 
31 (調整後)営業利益の定義は、各社によるが、例えばPrudential では、資産と負債が長期にわたって保有されることを反映して、金利や株式市場の変化など、市場状況の短期的な変動の影響を除外する等して算出される。
(3) 地域別展開に関する方針及びトピック
Prudential plcは、2023年以降に、Jackson Financial Inc.の分離に加えて、以下の地域別展開の見直し等を行ってきている。

2024年1月11日に、Prudential Life Assurance (Thailand) Public Company Ltd(以下「PLT」)がCIMB Thai Bank Public Company Limited(以下「CIMB Thai」)と10年間のバンカシュアランス・パートナーシップを締結し、PLTがCIMB Thaiのタイにおける独占的生命保険パートナーとなることを発表した。

2024年9月27日に、Bank Syariah Indonesia(BSI)との戦略的パートナーシップにより、ASEAN地域での拡大を図ると発表した。BSIはインドネシア最大のシャリア銀行で、資産額ではインドネシアで第6位の銀行である。これにより、Prudentialは2025年初頭から、BSIのシャリア生命保険会社となり、BSIがPrudential商品の販売・推進・顧客紹介を行うことになる。

2024年9月27日に、ナイジェリアでの合弁事業であるPrudential Zenith Life Insurance Limited(PZL)の残りの株式*をZenith Bankから取得し、PZLがPrudentialの100%子会社になることに合意したと発表した。Prudentialは2017年にPZLの51%の株式を購入している。これにより、Zenith Bankとのバンカシュアランス・パートナーシップを拡大する。Zenith Bankはナイジェリアが本店の大手銀行である。

2025年2月12日に、ICICI Prudential Asset Managementの潜在的な上場を評価していると発表した。

2025年3月20日に、インドのHCL Group のVama Sundari Investments (Delhi) Private Limited (Vama)との合弁会社を設立し、独立したインドの医療保険事業を運営する計画を発表した。Prudential plcが合弁会社の70%、Vamaが残りの30%の株式を保有する。
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