(注記) まず指摘したいのが、リスクの軽減策であり、リスクの排除策ではないところに留意が必要であるというところである。リスクを排除しようとすると、表現の抑圧につながることがある。また排除まで要請するとVLOP等の運営に多大な支障をきたすことになる可能性があるからであると考えられる。
(1)は選挙に関する公式情報の取得の支援、(2)サービスの受け手のメディアリテラシーの向上で論点は少ない。問題は(3)であり、ファクトチェック機関または内部チームによるファクトチェックラベル(以下、ラベル)添付である。ラベル添付とは、たとえば投稿について「事実(true)」「ほぼ事実(mostly true)」「半分事実(half true)」「ほぼ誤り(mostly false」「誤り(false)」「馬鹿げた話(pants on fire:尻に火がつく))」といったレーティングを表示するものである
8。したがって、白か黒かの二元論ではなく、幅を持たせた段階的な判断を表示するものとなっている。また、元の投稿を削除することは上述の通り、「illegal contents」に該当する場合に限られるので、ラベリングするだけで元の投稿は削除されないこともある。他方、GoogleなどのVLOSEでは、偽情報あるいは「嘘」とラベリングされたものはランキングの下位に落とすことは考えうる。それが上記(4)である。
ところで、ファクトチェック機関の中立性には議論のあるところで、たとえばMetaのザッカーバーグ氏は「ファクトチェックは政治的に偏りすぎていた」と述べたとのことである
9。ファクトチェックは意見論評についてではなく、提示された事実かどうかを判断するにとどめ、かつ運営資本の提供者を含め努めて中立性を目指している。しかし、特定の政治勢力に有利(または不利)な事実のみを肯定(又は否定)する場合には、政治的偏向とみられる場合があるのもまた事実である。このあたり、大変難しい問題である。さらにいえば、この点に関し、X(旧Twitter)では、ファクトチェック機関の利用ではなく、コミュニティノートの手法を採用している。これは偽情報と考える投稿について別のユーザーが修正情報(コミュニティノート)を当該投稿に添付し、一定の支持を受けた場合に、投稿とコミュニティノートの両方が表示されることになっている。また、最近、Metaもこの方法を採用する方針を打ち出している
10。
(5)でいう政治広告とは「通常、報酬を得るか、社内活動としてか、あるいは政治広告キャンペーンの一環として、メッセージの準備、配置、宣伝、出版、配信または普及をすること」を意味する
11。政治広告にはスポンサーの身元や配信者に支払われる金銭などの透明性が要求されている。また、インフルエンサーは他者の意見・行動に影響を与えるがゆえのインフルエンサーであることから、インフルエンサーがどのような立場で政治的な意見等を発信しているのかの透明性も求められる(上記(6))。
上記(7)は偽情報等の拡散に報酬が支払われないようにするというものである。偽情報は上述の通り、「人を欺いたり、経済的・政治的利益を確保する意図で流布されたり」する発信であり、社会的に正当化できない。このように正当でない発信に報酬を与えることは可能な限り避けるべきという考えに基づくと考えられる。
上記(8)は典型的にはbot(自動的に投稿する不正なシステム)や候補者のなりすましなどの不正な操作を検出・中断させる対策を採用することを求めている。
以上のような対策を行うにあたって、効果的な軽減策を立案・適用する必要があるが、これは入手可能な最善の情報と科学的洞察(テスト等の実施)に基づくべきとするのが、上記(9)である。