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(年金基金自身の対応)年金基金の流動性リスク管理とガバナンス
〇ガバナンスとリスク管理における、重要な流動性の統合
・年金基金自身が、関与する重要な流動性リスクを特定する必要がある。例えば
(1)デリバティブポジションに対する証拠金や担保の要求が必要になる状況の把握
(2)年金基金加入者による積立金等の早期引出しの可能性
(3)加入者の集団的な移転の可能性(筆者注:基金加入団体の脱退などのことか?)
ガバナンスに関しては、流動性リスクの管理責任の明確化やリスク管理戦略の文書化が必要である。
・流動性ストレスの取り扱いにおけるコンテンジェンシープラン
重大な流動性リスクにさらされた場合の対処計画を、事前に立てておく必要がある。計画を発動
するプロセスを決めておき、講じられる一連の行動と、その責任部門を明確に定めること。また
資産売却とその他の代替資金調達手段(例えば一時借入)を設定しておくこと
・モニタリングとレポーティング
重要な流動性リスクにさらされた場合の、年金基金から監督機関への報告、その中で流動性リス
クを適切にカバーし、効果的にモニタリングしていることが求められる。その際の指標として、流動性カバレッジ比率や超過流動性(ストレス時のネットキャッシュフローに対する流動性資産の比率、あるいは金額べースの余力)などを活用することが一般的である。
・リスクの自己評価(ORA:own-risk assessment)
年金基金自身による流動性リスクの評価報告書の作成
〇流動性リスク許容度
流動性リスク許容度について、文書化することで明示すること。そこには、重要な流動性リスクの原因と、予想される継続時間、およびこうしたストレスに耐えられる期間と対応可能な措置、維持する流動資産のバッファー水準と資産構成などが記載されている必要がある。
〇流動性リスク管理システムにおける通常時のレビューとアップデート
〇流動性ストレステストとそのシナリオ
・ストレステストとシナリオ分析の実施に際して考慮すべき要素
これは、タイムホライズン、リスクエクスポージャー、必要となる現金の規模などである。特に追加担保要求やデリバティブポジションに関しては、1日あるいは日中の動きなど、非常に短い期間における動きを考慮しておく必要がある。また対象期間に起こりうる資金流出入、流動性ポジションへの悪影響を見込む必要がある、通常の資金流出入の状況は、ストレステストやシナリオ分析の基礎となりうる。
・現実に起こりうる深刻な事象の設定
現実に起こりうる流動性ストレスを考慮する必要がある。そのために、過去にあった事象に基づいた悪影響を把握すること、また、関連する市場における、同様のエクスポージャー下にある市場参加者が、極度に集中するおそれを考慮する必要もある。
〇流動性資産のバッファー
・充分な水準の現金と、すぐに入手できる多様な流動性資産
コスト負担の比較的少ない流動性資産を、いくつか保有する必要がある。それは信用度が高く市場性の高いものでなければならない。これには例えば、一般の銀行預金や欧州中央銀行や各国中央銀行など一定水準以上信用のある金融機関の発行する債券や貸付金などがある。こうしたものは、一般に非常に短い期間で現金化可能である。
これに対して、一般の金融機関の発行する有価証券は、何らかのストレス発生時に流動性がなくなる可能性が高いので、現金化に際して信頼できる源泉とは言い難い。また各種資産を売却して現金を得る際に、売却損などの損失が発生することも考慮しなければならない。
・回復力と効果的な業務運用プロセス
平常時から流動性危機に関する緊急対応計画をテストし、必要に応じて計画を更新しておく
必要がある。その際、資産の売却や借入を行う場合、その相手方などとの協定内容が、ストレス条件下でも機能するかどうかを、確認しておく必要がある。そして、いざストレス状況ともなれば、協定にない運営は、利用できる可能性が低くなることも考慮すべきである。
〇第三者運営機関へのアウトソーシング
重大な流動性リスクの存在を認識した場合、平時よりデリバティブ商品も含む投資や資産管理を、第三者機関にアウトソースすることも有効であろう。ただしこの場合にも、その運用機関の運用プロセスの信頼性評価の文書化や、アウトソーシングのオペレーショナルリスクの評価が必要である。
〇プロポーショナリティ
流動性の性質、規模、複雑さに応じて、より高度な対応を要求される年金基金もあると考えられる。
3――今後の動きについて