コラム

残る農地、残らない農地~2022年問題以降の都市農地のゆくえ 3~

2022年12月09日

(塩澤 誠一郎) 土地・住宅

特定生産緑地指定制度は、2017年の生産緑地法の改正により設けられた。生産緑地の指定公告から30年経過すると、生産緑地を所有する農家はいつでも、当該自治体に対し買取り申出することができるようになる。しかし、30年経過前に、特定生産緑地に指定すると、買取り申出の機会が10年後に先送りされ、その間は引き続き営農以外の行為が制限される代わりに、固定資産税は農地並み課税のまま営農を継続することができるという制度である。

したがって前回指摘したとおり、対象となる生産緑地が、どれだけ特定生産緑地の指定を受けるのか、注目を集めてきた。多くの生産緑地が指定されれば、それだけ2032年まで農地のある環境が保全される。指定されなければほとんどが宅地化されていくことになる。

指定は生産緑地所有者である農家の意向に基づき、自治体が指定する。2022年を迎えて結果はどうだったのか、国土交通省が公表している資料を詳しく見てみたい。

図表1は、国土交通省が調査した、令和4年6月末時点の特定生産緑地指定意向状況を示したものである。2022年に生産緑地指定から30年が経過する生産緑地、つまり今回特定生産緑地指定の対象となる生産緑地の面積は全体で9,382㏊になる。このうち、既に特定生産緑地に「指定済み」が49%、「指定受付済み」が39%、指定の「意向あり」が1%となっており、これらを合計すると89%で、面積は8,348㏊になる。これに対し、指定の「意向なし」は10%で929㏊、「未定・未把握」が1%で105㏊である。未定・未把握の105㏊が指定されるか、指定されないのかによって1%の変動幅が残されているが、全体のおおよそ9割が特定生産緑地に指定され、東京ドーム約2,007コ分の農地が、向こう10年間、農地として維持される見通しである。6月末時点の結果であるが、既に2022年も1ヶ月を切っていることから、今後この結果が大きく変わることはないだろう。したがって、当初あった、ほとんどが宅地化してしまうのではないかといった懸念は遠のき、都市農地の保全を希望する者にとっては喜ばしい結果である。
ちなみに、筆者は2018年3月に、「2022年問題の不動産市場への影響~生産緑地の宅地化で、地価は暴落しない~」というレポートを執筆した。この中で、当時公表されていた複数のアンケート調査結果を基に、特定生産緑地の指定割合を独自に予測した。そこでは、特定生産緑地を指定して生産緑地継続が81%、指定せず買取り申出が最大6%、どちらの可能性もありが最大15%という予測であった。

予測に用いたアンケート調査結果はいずれも特定生産緑地制度が設けられる以前のものである。予測より実際の指定割合が上回ったのは、制度ができて農家の選択肢が明確になったことが大きいと思われる。

国土交通省によると、今回、特定生産緑地指定の対象となる生産緑地を有する市の数は、199市ということである。都道府県にすると、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県の1都2府8県だ。都府県毎の指定調査結果を見ると、もともと対象となる生産緑地の面積がまちまちであり、「指定済み・指定見込み」の割合もややばらつきがあるものの、三重県の57%以外はすべて80%以上となっている。特に多くの生産緑地を有する東京都、神奈川県、大阪府、京都府の割合が90%を超えており、それらに継ぐ埼玉県や千葉県も90%近くとなっていることが全体の指定割合を高めた要因であることが分かる(図表2、3)。
以上のように、全体の90%を占める特定生産緑地に指定される生産緑地、つまり2022年以降も残る農地の状況を見てきたが、一方で全体の10%は特定生産緑地に指定されず、農地としては残らない状況も明らかになった。次回はこの残らない農地について考察したい。

社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎(しおざわ せいいちろう)

研究領域:不動産

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴

【職歴】
 1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
 2004年 ニッセイ基礎研究所
 2020年より現職
 ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

【加入団体等】
 ・我孫子市都市計画審議会委員
 ・日本建築学会
 ・日本都市計画学会

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