4――英財務大臣とイングランド銀行
英国のイングランド銀行には、金融政策を所管するMonetary Policy Committee (MPC)と、金融システムの安定を所管するFinancial Policy Committee (FPC)がある。財務大臣は一年に一回総裁に対し、それぞれの分野について、「所掌と勧告」と題する書簡を送る。
金融システムの安定に関する書簡において、2019年までは、気候変動に関する言及はなかった。しかし、2020年3月の書簡では、第一に、FPCの本来的な責務である「金融システムの安定」の一部として、気候変動関連リスクに対する金融システムの強靭性を守り高めることを求めている。これは、翌2021年3月の書簡でも維持されている。
第二に、FPCの二次的な責務である「政府の経済政策に対するサポート」の一環として、ネット・ゼロ達成をサポートするうえでFPCも何らかの役割を果たすよう求めた。翌2021年3月の書簡では、「環境を守り気候変動に取り組むためにイノベーションと金融を用いてグリーンな産業を築くという政府の狙いをサポートし続けるべきである」との表現となった。
第一の点は「役割分担論」でも金融規制当局の当然の役割と考えられる。問題は、第二の点がどこまでを意味するのか、「総動員論」的な期待までを伴っているのか否かである。
この点について、書簡の受け手であるイングランド銀行ベイリー総裁は、様々なスピーチで、「役割分担論」的な立場を明確にしている。
「まず、中央銀行の役割はなんでないかを強調することから始めたい。中央銀行は気候変動の問題を『解決』したり、(ネット・ゼロ経済への)移行を主導したりするためにあるわけではない。権限と手段を有しこの戦いを率いるべき者は他にいる。もっとも、中央銀行にも果たすべき役割はあり、重要な役割を有している」(2021年6月)
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「自己資本規制が求める自己資本は、気候変動の結果生じる金融リスクに対しても強靭性を提供しうるし、また提供すべきでもある。しかし、気候変動の原因に対処するための適切な手段ではない。原因に対処すること、すなわち、(ネット・ゼロ経済への)移行を主導することは、気候政策の役割であり、まさに政府の責任だ」(2021年11月)
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7 Andrew Bailey, Tackling climate for real: the role of central banks, speech Given at Reuters Events Responsible Business 2021, 1 June 2021
8 Andrew Bailey, Laying the Foundations for a Net Zero Financial System, Remarks at COP26, 3 November 2021