上記で述べたように、様々な要因が重なることで、従来型の年功賃金を維持することが困難になってきている。すぐさま生産性と賃金の完全一致には至らないだろうが、今後はより個人の生産性に見合った成果主義的な賃金体系へと変わっていく可能性は高い。
賃金と生産性を一致させるための仕組みとして、ジョブ型雇用が検討されている。骨太の方針2021や、経団連の2021年版経労委報告においてもジョブ型雇用の活用について触れられている。
従来のメンバーシップ型雇用では、企業は新卒一括採用により人材を確保したのちに、従業員を育成する。対してジョブ型では、スキルを持った人材を採用するという逆の流れだ。ジョブ型雇用が機能するためには、就職前に労働者がスキルを身につけていることが条件である。しかしながら、生産性と賃金の差が小さくなると、転職が活発化し、社内訓練が縮小する可能性がある。企業は、従業員がある程度長期にわたり働き続けることを前提に社内訓練(先行投資)を行っているからだ。
現在、様々な公的な職業訓練が行われているが、それらの利用者は一部にとどまっている。制度自体の認知度が低いことや、訓練内容が労働者のニーズに合致していないといった要因もあろうが、人材育成は終身雇用の下、企業内で行われるという考えが根強く、働きながら自発的に学ぶということにシフトできていない可能性がある。
企業が終身雇用を前提とした社内訓練を行わずとも、継続的な教育訓練を実施するためには、必ずしも労働者の自発的な行動のみに依存させるのではなく、国からプッシュ型の訓練を提供することも必要だろう。
周辺環境の整備をしないまま成果主義の賃金体系へ移行すると、預り金の未回収コストが小さくなることで、不正の抑制効果が薄れることに加え、継続して十分な人材育成が行われないため、生産性の低下へとつながる恐れがある。そうならないためにも、国が主体となり、労働者が継続的に教育訓練を受けられるよう、現在の教育訓練制度の一層の拡充が求められる。
* Lazear, Edward P. (1979) "Why Is ThereMandatory Retirement?", The Journal ofPolitical Economy, Vol.87, No.6, pp.1261-1284."