2|医師主導治験では、治験の準備や管理業務を医師が行う
GCPの規定における、「自ら治験を実施する者」とは、厚生労働大臣に治験計画を届け出た治験責任医師とされている。この自ら治験を実施する者が、企業治験での治験依頼者にかわって、治験の準備や管理等の、あらゆる業務を担うこととなる。
ただし、実際問題として、1人の医師だけで治験を実施することは極めて困難であるため、通常は、治験の支援体制がとられる。たとえば、モニタリング、統計解析、総括報告書作成等の業務を、開発業務受託機関(CRO)に委託する事例がみられる。また、大学病院での治験の場合、大学等が医薬品開発を支援する組織として、臨床研究センター等の、アカデミック臨床研究機関(Academic Research Organization, ARO)を設けて、支援するケースもある。
なお、医師主導治験の場合でも、厚生労働省への承認申請は、自ら治験を実施する者(治験責任医師)が行うわけではない。承認申請は、医薬品メーカーが行うこととされている。
また、複数の実施医療機関で、同一の治験実施計画書(PC)にもとづいて、治験を実施する場合がある。このような場合は、あらかじめPCの解釈や、治験の実施手順を実施医療機関の間で統一させておく必要がある。その役割を担うのが、「治験調整医師」である。治験調整医師を支援するために、治験調整事務局が設置されることもある。
3|医師主導治験は、企業治験と異なる点が多い
医師主導治験は、企業治験に比べると、自ら治験を実施する者や、それを支援するCRO等の業務が多くなる。また、つぎのような実務上の相違点もある。
・ 厚生労働大臣への治験計画届の提出が、自ら治験を実施する者の業務となる。そのため、提出の前に、実施医療機関の長から、治験実施の承認を取得しておく必要がある。
・ モニタリングや監査を実施医療機関で行うため、手順書や報告書の第三者による審議が必須となる。その審議のために、治験審査委員会(IRB)を設置することが必要となる。なお、モニタリングや監査を行う際は、治験の実施に従事しない者のなかから選任しなくてはならない。
・ 重篤な有害事象(SAE)が発生した場合、自ら治験を実施する者が、厚生労働大臣への報告を行わなくてはならない。
・ 医師主導治験では、研究費が限られているため、被験者に負担軽減費が支払われない場合がある。
・ 医師主導治験では、検査・画像診断や、同種同効薬も保険外併用療養費の給付対象となる。
4|医師主導治験の場合、治験保険への加入が推奨される
医師主導治験では、自ら治験を実施しようとする者は、治験に関連して被験者に生じた健康被害に対する補償に備えて、保険への加入の措置、副作用等の治療に関する医療体制の提供等の措置を講じることとされている
18。
医師主導治験保険は、補償金に対するもので、一定水準を超える健康被害(死亡または後遺障害)の救済のための準備として利用される。ただし、抗がん剤や免疫抑制剤などでは、疾患や重症度によっては、保険に加入できない場合もある。
なお、過失のある医療行為に起因して生じた健康被害は、医師賠償責任保険がカバーするため、医師主導治験保険では補償されない。このため、治験を実施する者(治験責任医師)は、医師賠償責任保険と医師主導治験保険の両方に加入しておくことが求められる
19。
企業治験の場合には、治験薬の欠陥に伴う賠償事故に備えて、治験依頼者(医薬品メーカー)が、生産物賠償責任保険(PL保険)に加入していることが一般的である。
18 GCP省令第15条の9(被験者に対する補償措置)による。.
19 医師主導治験保険の補償責任条項の範囲は、損保会社により異なる。治験保険に加入した場合、補償の内容を被験者に説明するための「補償概要」を、自ら治験を実施しようとする者が作成することとなる。
6――安全性対策