2|
保険・年金分野について
レポートでは、こうした概要に続いて、大項目の見出しにもあるように、市場環境の認識や証券投資分野、銀行分野でのリスク認識などが記載されているが、ここでは特に保険・年金分野のリスクについての記載を紹介する。
(以下、報告書記載の要約)
D.保険および年金基金セクターのリスク
Covid-19ショック前には、保険セクター資本ポジションは健全だったので、その後の事業に一定のバッファーとなった。 2019年末には、保険セクターのソルベンシー資本比率(SCR、中央値)は213%で十分な資本を保持していた。2019年には、上半期の株価の回復と利回りの低下により、資産評価が改善しており、マクロ金融ショックがセクターに与える影響に耐える一定のバッファーを提供することとなった。
それにもかかわらず、予期しないCOVID-19ウイルスの発生は、保険会社の支払能力に悪影響を与える可能性がある。 低金利が持続するとの予想、資産価格の下落、および経済の不確実性は、保険会社のバランスシートに悪影響を及ぼした。さらに、格付けの引下げを伴う信用リスクの増大が顕在化したことは、保険会社のソルベンシー比率および投資に悪影響を及ぼすだろう。
逆に、この状況下で分配配当を削減せざるをえないことによって資本水準が維持できて、保険会社のソルベンシーリスクを軽減する可能性がある。
なお、続く2020年第1四半期においては、保険セクターのソルベンシーポジションは悪化し、SCR比率は12pp減少して200%になっている模様である。
COVID-19の影響という点では、予想されるさらなる長期の低金利環境は、債券投資のリターンを通じて保険会社の収益性を圧迫する。満期を迎える債券の償還資金については、より低いレートで再投資せざるをえない。例えば、保険会社は、10年以内に、国債ポートフォリオの約60%(満期までの平均利回り3.24%(2019第4四半期))を再投資して、現在平均1%の資産に再投資せざるをえない。過去に販売された高い保証利率の生保商品ポートフォリオの場合、その保証を果たすために高い利回りの資産運用が必要となるため、この収入減少の影響は深刻である。
保険会社の収益性は、中長期的な視野でのCOVID-19の直接的な影響によってさらに弱まる可能性がある。 2020年3月のCOVID-19ショックは、リスクフリーレートと今まで高かった信用力に基づく利回りを低下させると同時に、よりリスクの高い資産の不確実性とリスクプレミアムを高めました。さらに、生命保険および損害保険事業の保険金請求が増加することにより、潜在的な悪影響が生じる可能性もある。さらに、将来の保険料収入は、経済成長の低下と比例して低成長となる可能性があり、保険金請求の増加は、保険会社の引受行動を渋らせる可能性がある。
また、契約の条件に関して、いくつかのリスクの適用範囲が曖昧なため、訴訟リスクが高まる可能性もある。
最後に、保険会社にとっては、ユニットファンドの価値が低下し、それに比例するファンド管理収入が減少するため、ユニットリンクの収益性が低下する可能性がある。
(中略)
このような背景の下、EIOPAは各国の監督当局と緊密に協力して、保険会社が顧客にサービスを提供するための事業継続性の確保に集中できるよう支援する。コロナウィルスの発生が保険セクターに与える影響を軽減するために、EIOPAと各国監督当局の両方が、報告期限、公開協議、および情報要求に関して柔軟に対応するようにしている。
資本面では、EIOPAは、配当や役員等への変動報酬の支払方針をより慎重にすることで、保険会社が被保険者保護とバランスをとって資本ポジションを維持するための措置を講じることを奨励している。
消費者保護の面では、EIOPAは保険会社と仲介業者に対し、消費者を公正に扱い、契約上の権利に関する明確でタイムリーな情報を提供するよう求めている。
(要約、いったんここまで)
特に年金基金については以下のような記述がある。
(再び、記載内容の要約)
職業年金制度(IORP)は、COVID-19危機と長期にわたる低金利環境の影響を大きく受けており、年金によるファンディングレシオ(=資産/年金債務)が大幅に低下する可能性がある。2019年においては、投資収益率がプラスであり、資産価値が大幅に増加し、その結果としてカバー率が改善していたが、2020年においてはCOVID-19パンデミックの結果の市場の混乱の影響を大きく受けた。低金利のため、また市場整合性ある評価が適用される場合の割引率が低いため、負債側はすでに悪影響(=増大)を受けている。IORPの資本と支払能力の比率はそれぞれの国内法に従うが、この危機によって確実に悪影響を受けていると思われる。
欧州内の年金制度が国や地域によってまちまちであることで、メンバーと受益者、IORP自体、スポンサー、および年金保護制度がリスクを負う範囲にそれぞれ違いがある。
現在の年金制度への長期的な影響は依然として不確実であり、それは経済危機がどれほど深刻になるか、そしてそれがどれくらい続くかによって変わってくる。この点で、非常に重要なのは、失業や可処分所得などのマクロ変数の変化である。COVID-19パンデミックの影響を大きく受けたセクターでのスポンサー事業は、深刻な財政難に陥ると予想され、それに応じて、そのような年金基金のメンバーは近い将来失業のリスクにさらされるかもしれない。さらにCOVID-19パンデミックは流動性圧力をもたらす可能性がある。より具体的には、企業は以下のような困難に直面する可能性がある。
・雇用主および従業員からの拠出の遅延または欠落
・デリバティブヘッジポジションに対する現金証拠金が必要となる可能性
・住宅ローンを含む貸付金などの返済猶予
・年金基金の保有株式への株式配当金の減少するおそれ
・現在の市場状況下では、たとえ資産売却を行おうとしても困難が予想されること
(要約おわり)
3――おわりに