ESG投資が拡がりを見せる中、無形資産への注目が高まりつつあるが、企業行動やパフォーマンスに重要な影響を及ぼしうる無形資産の一つに企業文化がある。実際、日本企業のホームページを見ると、経営理念など企業文化に関連する情報がトップページに載っている企業は多く、企業が企業文化を経営上重要なものと位置づけていることが窺える。また、伊藤レポート2.0の6章の中では、企業のビジネスモデルや戦略の根幹にあるものとして、企業理念や企業文化を理解することが重要であると指摘されている。
企業文化には様々な定義があるが、近年の研究で一般的な定義として「組織中で幅広く共有され強く保有されている価値観(Values)や行動規範(Norms)」がある(O’Reilly and Chatman,1996)
1。ここで価値観は「組織構成員が満たそうとする理想」、行動規範は「このような価値観を反映した日々のプラクティス」と定義される。このような企業文化は、コーポレートガバナンスなどのフォーマルな制度とともに企業行動に影響する。北米企業を対象にサーベイ調査を行ったGraham et al. (2019)では経営者が企業文化を経営上最も重要な経営資源の一つと捉えていることが明らかにされている
2。
日本企業の企業文化にはどのような特徴があるだろうか。国毎の文化の違いに焦点を当てたHofstede の研究では日本企業の特徴として不確実性回避(Uncertainty avoidance)の強さなどが挙げられる
3。多額の現金保有、低いレバレッジといった保守的な日本企業の財務政策にはこうした特徴が多少なりとも影響していよう。他方、企業間の企業文化の差異に焦点を当てた研究ではCVF(Competing Value Framework)と呼ばれる分類方法が幅広く用いられ(図表1)、日本企業の特徴も分析対象となってきた。
1 O’Reilly ,C. A., Chatman, J.A., 1996. Culture as social control: corporations, cults, and commitment. In B.M. Staw and L.L. Cummings(Eds), Research in Organizational Behavior, Vol. 18. JAI Press.
2Graham, J., Grennan, J., Harvey, C., Rajgopal, S., 2019. Corporate culture: evidence from the field. NBER Working Paper 23255.
3 Hofstedeの研究については分析方法等について様々な批判があるが、近年はグローバルデータを用いたファイナンス分野の実証研究でも扱われるようになってきている。