「8月の円高」への警戒が必要に~マーケット・カルテ8月号

2020年07月20日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

今月のドル円は106円台後半~107円台後半での膠着した展開となり、足元も107円台前半で推移している。市場では内外での新型コロナ感染拡大を受けたリスクオフ(回避)局面と、コロナワクチン開発への期待等によるリスクオン(選好)局面とが交錯しているが、こうした材料に対して、ともに低リスク通貨とされる円とドルが他通貨に対して同方向に動くことが多く、ドル円での動きが抑制されている。また、日銀、FRBともにひとまず危機対応策を出し尽くした感があり、当面大きな動きが見込まれないこともドル円の動意を削いでいる。

今後もしばらくこうした構図が続くとみられ、ドル円の方向感は出にくいだろう。従って、3か月後の水準は現状程度と予想している。

ただし、目先は「8月の円高」に警戒が必要になる。理由はマチマチなうえ持続性にも欠けるが、8月のドル円(月次平均)は2016年以降昨年まで4年連続で円高ドル安に振れてきた。一種の経験則だが、市場参加者の円高への警戒がドル買い抑制を通じて自己実現的に円高に繋がる可能性もある。

ユーロ円は、今月に入り、リスク選好時の円売りユーロ買いや欧州復興基金への期待を受けて上昇し、足元は122円台後半にある。復興基金を巡る交渉は現在大詰めを迎えているが、合意に至れば、ユーロ高材料になるだろう。ただし、これまで長きにわたって織り込まれてきたテーマであるうえ、内容が当初から後退していることもあり、持続性は期待しづらい。むしろ、投機筋のユーロ買いポジションが溜まっているだけに、材料出尽くしによるユーロ売りが優勢になる可能性が高い。3か月後は現状比でややユーロ安と予想している。

長期金利は、国債増発やワクチン開発への期待等が金利上昇圧力になる一方で、日銀の積極的な国債買い入れ方針と感染第2波への警戒が抑制圧力となる形で、0.0%を若干上回る水準での推移が続いている。今後、国債増発や景気回復期待によって金利上昇圧力が高まったとしても、日銀は景気等への配慮から許容せず、国債買入れ増額で吸収するだろう。3か月後の水準は現状比で横ばい圏とみている。
 
(執筆時点:2020/7/20)

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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