2|寒冷環境では、低体温症と凍傷が問題となる
寒冷環境では、全身的な障害の低体温症と、局所的な障害の凍傷がある。それぞれ、みていこう。
(1) 低体温症
体内の産生熱量が放熱量を下回り、体温が低下する。その結果、血行が緩慢となり、体内の各組織は十分な酸素供給を受けられなくなる。脳や中枢神経も障害され、精神活動の低下、言語不明瞭、全身倦怠、眠気が出現する。よく「雪山で遭難すると眠気が襲う」といわれる状態である。
さらに障害が進むと、知覚麻痺、幻聴・幻視、狂躁状態となることもある。
低体温が進み、直腸温
35が30℃以下になると、急速に全身機能の低下が起こるとされる。瞳孔散大、呼吸停止、心停止、すなわち凍死に至る。
低体温症の治療法として、暖かい室内で、温浴や温水を入れたバッグでの加温を行うことなどがあげられる。血液の心拍出量が低下している場合には、体温がなかなか上がらないため、温水による腹膜や胃の灌流(かんりゅう)などが必要となることもある。それでも体温が上昇しない場合は、人工心肺装置での加熱や、開胸して心嚢周辺の温水灌流と心マッサージが行われるケースもある。
35 直腸の温度のこと。通常、腋窩温や口腔温よりもやや高く測定される。外気による影響を受けにくいため、死体の検視・検案や、生命に危険を及ぼす重度の高体温・低体温の診察などに用いられる。
(2) 凍傷
局所が氷点下となり、組織の凍結が起こった場合に、凍傷を発症することがある。凍傷は、病変の浸透度に応じて、表在性凍傷、深在性凍傷の2つに分類される。
(a) 表在性凍傷
病変が表皮にとどまるか、一部真皮に及ぶもの。発赤、浮腫、水泡などを生じる。
(b) 深在性凍傷
病変が真皮から皮下組織、骨にまで達し、病変部全体が萎縮する。皮膚は黒紫色または白蝋(はくろう)化し、その後、黒く乾性壊死する。
凍傷の治療法として、40~42度の温湯による患部の急速融解が、まず最初に行うべき治療とされる。患部の状況によっては、薬剤を用いる、交感神経を遮断するなど、いくつかの治療法がある
36。
36 具体的には、低分子デキストランを用いる、プロスタグランジンE1を用いる、交感神経を遮断する、末梢血管拡張剤を用いる、蛇毒酵素を用いる、抗凝固剤を用いるなどの治療法がある。
3|低圧環境では、高山病のリスクがある
低圧環境の高山での登山などでは、低酸素による高山病のリスクがある。
高山病は、急激に低圧低酸素の環境にさらされると、酸素不足により、生体を構成する細胞の細胞膜の機能が低下することにより発生する。その結果、細胞の内外で水分が貯留して、浮腫が生じ、頭痛、不眠、心悸亢進などの高山病となる。重症の場合、肺水腫や脳浮腫を伴って意識障害や昏睡状態に至ることもある。
高山病への対策として、登山などで高度を上げるときはゆっくりと上げること、酸欠や脱水を防ぎ体調管理を徹底すること、などがあげられる。
4|高圧環境では、潜水病に注意が必要となる
高圧環境の問題として、潜水時の高圧環境から常気圧に戻る際に、潜水病に注意する必要がある。
潜水時には、圧力の増大に伴い、体内の組織の体液中に窒素などのガスが溶解する。潜水を終えて、急速に浮上すると、激しい減圧のため、溶解していたガスが気泡化する。気泡化したガスの量が多い場合、組織を圧迫したり、血管塞栓が生じたりする。潜水病が重症の場合、中枢神経の障害により、神経の損傷や麻痺が続く重篤な後遺症を招くこともある。
治療については、一般に、潜水病の自然治癒はあまり期待できないとされている。緊急的には、再度潜水して、高圧環境下で気泡を縮小させて症状を軽快させること(「フカシ」といわれる)が行われることもあるが、空気を用いるため治療効率が乏しく、一般には推奨されない。
高気圧治療装置の整っている医療施設で、100%酸素を吸入し、全身に酸素を供給する「高気圧酸素治療」が、有効な治療法といわれている。重症の場合には、救急処置として、救急搬送中に常圧の純酸素を呼吸させることで、低酸素状態をある程度緩和することも行われている。