中国の競争優位に対して米国が感じる脅威は、ファーウェイへの攻勢として具体的に現れてきた。
2011年、米国政府は、サーバー技術を持つ米国企業3Leafのファーウェイによる買収を阻止している。理由として、ファーウェイが軍人によっても投資されていること、人民解放軍が長期に渡ってキー・テクノロジーを無償でファーウェイへ提供していること、両者が長期にわたる多くの共同プロジェクトを有していることなどが挙げられた。2012年米国下院議会調査委員会による報告書にてファーウェイとZTEの中国通信機器大手について米国の安全保障への脅威であるとの主張がなされ、2014年には米国政府機関などでファーウェイ製品の使用を禁止する措置がとられた。そして、2018年、米国政府機関とその職員がファーウェイとZTEの製品を使用することを禁じる国防権限法が成立した。こうした「ファーウェイ排除」の動きは、米国の他にもカナダ・オーストラリア・ドイツ・英国などにおいても同様である。
ファーウェイの創業者レン・ジンフェイはかつて人民解放軍に所属し、創業当初は人民解放軍時代の人脈を活かして業績を伸ばしたとも言われている。米国による攻勢の背景には、中国人民解放軍や中国の情報機関との関係に関する懸念があるものと考えられる。対してファーウェイはこうした疑念を強く否定、近年は中国政府から距離を置く姿勢を明確にするとともに、未上場企業でありながら内容の濃いアニュアルレポートを策定するなど積極的な情報開示に努めている。グローバルにビジネスを展開していく上で中国リスクを払拭したいというファーウェイの意思の表れであろう。
そして、2018年12月に起きたのが「ファーウェイ・ショック」である。レン・ジンフェイの娘でもある孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)が違法金融取引の疑いで、米国の要請に応じたカナダ当局によって逮捕されたのである。12月5日に逮捕が発覚すると、翌6日からの米国株式市場でダウ工業株30種平均は2営業日続落し、2万5000ドルを割り込む事態となった。日経平均も一時600円を超す急落、中国株も下落と、「ファーウェイ・ショック」は世界同時株安をもたらした。米国司法省は2019年1月、イラン制裁違反と企業秘密の窃盗を巡る2つの事件に関して銀行詐欺、通信詐欺、資金洗浄、司法妨害などを含む合計23にものぼる罪状でファーウェイを起訴している。孟副会長の逮捕にかかわる問題も長期化が予想されている。
では、具体的に、ファーウェイの何が問題視されているのであろうか。それを明快に示しているのが、2018年12月27日に日本経済新聞に掲載された「華為技術日本株式会社(ファーウェイ・ジャパン)より日本の皆様へ」と題した全面広告の内容である。そこには、「一部の報道において、『製品を分解したところ、ハードウェアに余計なものが見つかった』『マルウェアが見つかった』『仕様書にないポートが見つかった』といった記述や、それらがバックドアに利用される可能性についての言及がありました」と記され、ファーウェイはそれを「まったくの事実無根」と否定している。つまり、ファーウェイが製品を通じて不正に情報を収集している、端的にいえば中国政府や人民解放軍の代わりにスパイ活動をしている可能性が問題視されたのである。
現時点で、ファーウェイがスパイ活動を行っているという明白な証拠は存在しない。また、サイバー攻撃の手法も高度化し、今や「ハードウェアに余計なものを入れる」といった古典的かつ稚拙な手法は不要である。一方で、ファーウェイと中国政府や人民解放軍との深いつながりについては、様々な資料が存在することも事実である。
5――「ファーウェイ排除」の本質、及び米中新冷戦に対峙する中国のセンチメント