この章では、今回のIASBによるIFRS第17号の修正に関するEDへの意見とは独立して、IFRS第17号を巡るその他の動向のうち、IFRSを実質的に採択しているオーストラリアとカナダの保険監督当局における動きについて報告する。
1|オーストラリアの保険監督当局APRAの対応
オーストラリアの保険監督当局であるAPRA (オーストラリア健全性規制庁)は、9月27日に、保険会社宛に書簡
9を送って、IFRS 第17号のオーストラリア版であるAASB第17号を健全性資本及び報告の枠組みに統合するアプローチについて協議している。協議は11月22日まで行われる。
また、生命保険及び損害保険会社は、生命保険及び損害保険資本(Life and General Insurance Capital Standards :LAGIC)制度に従っているが、民間の健康保険会社の資本ルールは開発中であり、APRA はこの部門のAASB 第17号へのアプローチを検討している。
(1)リスク軽減のための実施準備
APRA はAASB 第17号への移行に伴うリスク軽減のため、AASB 第17号への準備に関する情報を保険会社に要求しており、11月8日までに回答することを求めている。
(2)レビューアプローチ
APRA は以前、2020年半ばに確定する予定である国際会計の枠組みがより確実になるまで、規制資本と報告に対する詳細なアプローチを決定しないと述べていたが、利害関係者は、慎重な取り扱いとAPRA の報告要件の側面を明確にすることを求めてきていた。APRAは、この書簡を皮切りとして、AASB17統合への指標となるアプローチに関する最新情報を提供することを提案している。
(3)健全な枠組みへの統合時期
APRA は、AASB 第17号の発効日が2022年1月であると仮定して、保険会社が2023年7月1日からAASB 第17号ベースの規制資本要件の報告と決定を開始することを提案している。なお、保険会社が2023年7月1日のAPRA が示した開始日より前にAASB 第17号を採用する場合、保険会社は、引き続き既存の健全性及び報告基準に基づいて、規制資本を決定し、規制報告書を提出しなければならない。
(4)具体的な項目についての方向性(例)
APRAは、統合計画のいくつかの側面を概説している。生命保険固有の項目については、例えば、以下のような方向性が示されている。
・資本費用の較正については、AASB 第17号の統合による意図しない結果に対処するために、LAGICの枠組みでのリスク費用の再較正が必要かどうかを検討する。これは、AASB統合に関連する多くの調整が、自己資本基準の決定及び健全性資本要件の計算に影響を与えるという見解を反映している。
・割引率については、規制上の自己資本を決定するために、保険会社に特定のリスクフリー割引率を適用することを引き続き要求する。APRAの見解では、慎重な資本結果を達成するためには、容易に実現可能な資産から得られる収益を反映し、信用リスクのないこれらのレートに基づいて負債を評価することが引き続き適切である。また、オーストラリアの契約債務については、英連邦政府証券の利回りを、保険会社の資本ベースと所定の資本額を決定するための安全率として維持することを意図している。外貨建契約債務については、契約債務通貨及びカウンターパーティ・グレード1の流動性の高いソブリンリスク証券の利回りを基準としたリスクフリー金利の適用を保険会社に求める要件を維持しようと考えている。APRAはさらに、規制上の自己資本を決定するために適用される利回りに内在する信用リスクや非流動性に対する準備金を除去するための調整を保険会社に求め、割引率の決定に関する情報をAPRAに提供することを期待している。