以上見てきたとおり、近年、メンタルヘルス不調への予防に向けた取り組みが活発になってきているが、現在のところ、メンタルヘルス不調者数や離職者数に大きな改善は見られない。
ストレスチェック制度を導入することによって、自分が高ストレスであることに気付いていても、職場に伝える方法がなかった従業員にとっては、職場に状態を伝え、医師等の助言をもらう機会を得ることができるようになる。また、心身の自覚症状がなく、自分のストレスに気付いていなかった従業員にとっては、アンケートに回答する中で、自分のストレス状況に気付くきっかけとなる可能性がある。
集団分析によって、業務配分の見直し、人事体制・組織の見直し、管理監督者向けの研修の実施につながった例もあるほか、仕事量を調整できない職場であっても、周囲からサポートを行ったり、仕事のコントロール度を増すことで、職場にあった方法でストレス反応への効果が表れる可能性がある。
一方で、制度導入当初から指摘されていた、高ストレス者が面接を申し出ない、正直に回答しない、受検しない、という課題は残されたままだ。
2015年に導入されたストレスチェック制度では、本人の同意がない限り、個人の結果は職場に知らされないが、高ストレス者の面接は職場に申し出る必要があり、職場にストレス状態を知られてしまうため、受検や面接を敬遠している可能性がある。結果の集団分析を行った企業でも、業務配分の見直し、人事体制・組織の見直し、管理監督者向けの研修の実施などの対策に至った割合は少なく、結果を活用していない企業も多い。従業員からは、受検のメリットが実感しづらい可能性がある。
従業員のストレス状態を改善し、生産性を上げるような効果的な制度とするためには、面接を受ける機会を増やす必要があると思われる。たとえば、職場に知られることなく面接指導を受けることができ、職場での対応が必要になる場合にのみ、本人が納得の上で職場に伝えられる等、現在よりも匿名性を高めること、あるいは、ストレスチェック制度とは関係なく、定期的に医師等による面接を受ける機会を作ること等が考えられないだろうか。
さらに、現在、受検している高ストレス状態でない従業員においては、受検のメリットを感じることができなければ、いずれ受検をしなくなったり、いい加減な回答をするようになりかねず、制度が形骸化する恐れがある。受検率を上げ、現状を正確に答えるようにするためには、ストレスチェック結果の概要や職場課題、今後の対応策について、従業員と共有し、ストレスチェック実施の意義について理解を深めることが重要だろう。
*1 「労働安全衛生法」により、常時雇用する労働者が50人以上の事業場で義務付けられた。契約期間が1年未満や労働時間が通常の従業員の所定労働時間の4分の3未満の短時間従業員は義務の対象外。
*2 1ヶ月以上休業の後、退職した従業員は、退職でカウントしている。
*3 ニッセイ基礎研究所「健康に関する調査」。2014年9月実施。20~69歳(学生を除く)を対象としたインターネット調査。
*4 日本生命保険相互会社「福利厚生アンケート調査(2018年1月)」。2017年5~10月実施。日本生命保険相互会社の顧客企業・団体(従業員・職員数300人以上)1,274社が対象。898社が回答。
*5 (公社)全国労働衛生団体連合会「平成29年全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書(2018年9月)」。