(2) 壊死とアポトーシス
1) 壊死
細胞が壊死する原因は、酸素の供給が止まり、酸素不足となることによる。壊死が起こると炎症反応が生じ、白血球や、白血球の一種であるマクロファージ
39が来て、壊死した細胞を貪食(どんしょく)する
40。動脈が血栓などのために塞がって血液が流れなくなり、その動脈が支配する細胞が壊死した場合、「梗塞」と呼ばれる。通常、臓器に梗塞が起きると、タンパク質の変性により、梗塞した部分が固くなる「凝固壊死」となる。ただし、脳については、梗塞した部分が融解する「融解壊死」が生じる。脳の神経細胞には、脂質成分が多く含まれるためと考えられているが、そのメカニズムは現在の医学では未解明のままとなっている。
39 細菌・異物・細胞の残骸などを細胞内に取りこみ消化する力の強い大型の単核細胞。炎症の修復や免疫にあずかる。大食細胞。組織球。(「広辞苑 第七版」(岩波書店)より)
40 貪食とは、細胞が細胞外の異物をとりこむこと。
2) アポトーシス
一方、アポトーシスは、あらかじめプログラムされた細胞死とされる。たとえば、胎児の成長過程では、手のうち指として残る部分以外の細胞がアポトーシスで死ぬことで、手の形ができるとされる。また、女性の月経は、子宮内膜細胞がアポトーシスで死ぬことで、子宮壁から脱落して生じる
41。
病理医は、顕微鏡を用いて、さまざまな細胞の変性
42を読み取る。これにより、患者の病態を正しく診断し、適切な治療につなげることが求められている。
41 傷害によって生じるアポトーシスもある。放射線などにより細胞のDNAが損傷すると、大量な場合は壊死するが、中程度の量の場合は、アポトーシスにより細胞が自殺する。また、抗がん剤の中には、細胞のアポトーシスの仕組みを利用して、腫瘍細胞を死に至らせるものもある。
42 変性とは、「異常な物質がたまっている」「異常な量の物質がたまっている」「異常な場所に物質がたまっている」といった質的、量的、部位的な異常物質の出現が生じている状態といえる。(「図解入門 よくわかる 病理学の基本としくみ」田村浩一著(秀和システム, 2011年)をもとに、筆者がまとめた。)
2|代謝障害 : 代謝は体内の物質加工
(1) 肝臓の代謝障害
体内に取り込まれた物質は、臓器や細胞で、エネルギーの獲得や、有機材料の合成のために、いろいろな形に加工される。これは「代謝」と呼ばれる
43。代謝を行う中枢の臓器は、肝臓とされる。
肝臓機能の低下などにより、物質の供給、加工、排出・消費が異常をきたすと、代謝障害となる。代謝が滞って肝臓に蓄積する物質によって、肝臓の色が変化する。
骨髄の赤血球産生機能が損なわれた患者が大量の輸血を受けると、輸血された血液中の利用できない鉄が肝臓に蓄積する。この結果、肝臓は赤色になる。
また、大量のアルコールの摂取等により脂肪の代謝が障害されると、肝臓は脂肪肝となって黄色になる。脂肪肝は、動脈硬化をひき起こすこともあるため、診療が必要となる(後述)。
さらに、肝炎で肝細胞が壊れて肝機能が低下したり、胆石や腫瘍により胆管が詰まって胆汁の輸送が遮断されたり、不適合輸血による溶血
44で赤血球の分解量が増えたりした場合、胆汁色素であるビリルビンが血液や組織の中に増加する。その結果、皮膚に黄疸(おうだん)が生じる。ビリルビンは、酸化されるとビリベルジンという緑色の物質に変化する。黄疸の強い肝臓をホルマリンにつけて固定すると、このビリベルジンにより、肝臓は緑色になる。