2016年の選挙でトランプ大統領を誕生させた大きな要因は、伝統的に民主党支持だった白人労働者が共和党のトランプ氏を支持したことにある。J. D. ヴァンスの「ヒルビリー・エレジー」は、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(首筋が赤く日焼けした労働者)、ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)などと呼ばれる白人労働者をアメリカで最も厭世的傾向にある社会集団と呼び、繁栄から取り残された白人の生活を紹介してベストセラーとなった(注2)。医療保険や税制などを見れば政策全体では民主党の政策の方が低所得者層に手厚いと判断されるが、この本で紹介されたような人達は、共和党の掲げた保護貿易主義や不法移民の取り締まり強化といった政策の方が自分達のためになると考えているようだ。
工場閉鎖で衰退しているラストベルトと呼ばれる地域の複雑な家庭で育ちながら、ようやく「ごくふつうの生活」を手に入れることに成功したJ. D. ヴァンスは「アメリカン・ドリームを生きる幸運に恵まれた私たちは、つねに不安に追い立てられているのだということも知ってほしい」と述べている。これは日本でも自分の生活水準を中程度だと考えている人の多くが感じているものと同じなのではないかと考え込んでしまうのである。
(注3)"Our Kids: The American Dream in Crisis", Robert D. Putnam,(Simon & Schuster, 2015)