コラム

健康診断と体力測定―ご自分の体力を知っていますか― 

2018年11月14日

(中村 昭)

健康に関する国民の関心は高く、健康に関する知識量も相当なものがある。医療関係者でもない一般人の健康談義の中でも、「HDLコレステロールが多い」とか「γGTPの数値がどうした」とか「ヘモグロビンA1cは大丈夫」とか、かなり高度な内容の話が平然と語られている。これらの数値は、いずれも定期健康診断の検査項目なので、常識として会話が成立しているのである。まさに、定期健康診断の義務化による普及の成果であり、その結果我々の健康情報リテラシーはかなり高くなっている。各人が見える化された検査結果数値を認識することにより、成人病予防にも大きな貢献を果たしていると考えられる。

一方、「握力はいくつ」とか「立ち幅跳びはどのくらい跳べるの」といった、ごく単純な質問には答えることができない。いずれの数値も、文部科学省が定めた体力測定(新体力テスト)の数値であるのだが、普及が進んでいないため、多くの人は測定したことがなく、各人に見える化されていないからだ。
 
近年、高齢化の進展とともに、高齢者の体力や運動能力について、大きな関心が寄せられている。それは、高齢者が健康で自立した生活を過ごすためには、成人病予防といった疾病への対応だけでなく、根幹となる体力や運動能力の維持の重要性が明らかになってきたからだ。

メタボリックシンドローム(メタボ:内臓脂肪症候群)と同様に、ロコモティブシンドローム(ロコモ:運動器症候群)の予防の重要性が提唱されている(運動器とは、骨・関節・靱帯、脊椎・脊髄、筋肉・腱、末梢神経などの器官の総称)。また、健康な状態と、介護を要する状態の間に、フレイル(虚弱、脆弱)と呼ばれる期間が存在し、運動療法等の適切な介入を行うことにより、要介護状態への進行を阻止あるいは遅延させることが出来ることがわかってきた。
 
健康診断に関わるものについては、例えば暴飲暴食を慎めば、翌年の健康診断の数値が好転することが自覚できるので、インセンティブが働くし達成感もある。しかしながら、体力や運動能力が大事だと言われても、自分の状態が見える化されていない現状では、インセンティブが働きにくい。

私事で恐縮だが、三日坊主の性格に反して、ここ5年ほどノルディックウォークというスポーツを継続している。ポールを両手に持って、地面を押しながら歩く、ノルディックスキーの歩行版だ。私の属している団体は、健康の維持・向上を目的としているので、歩行姿勢の指導が厳しい。ポールで地面を押すことによる反発力を利用して、とにかく肩甲骨を寄せて胸郭を引き上げるよう指導される。

その甲斐があって、猫背が矯正されて、スッキリと直立する習慣が身に付いた。

ある時、「これだけ運動を続けているのだから、何か身体によい変化は現れていないのか」と、ふと思いついた。しかし、体力測定は受けたことがないので、運動前後の身体状況の変化を比較することが出来ない。ただ、定期健康診断代用の人間ドックを毎年受診しているのだが、その中に唯一の体力測定的な項目として、『肺活量』があったことを思い出した。そこで、過去のドックの結果表を引っ張り出してきて、肺活量の推移をまとめてみたのが、下のグラフである。
わかったことは2点である。

(1) 運動を始める前は、加齢とともに肺活量が毎年減少していた(どうも一般的な現象のようだ)
(2) 運動継続実施後は、いまのところ顕著な改善が続いている
 
実は、肺活量の改善に自分で気づいたのは59歳の時であり、その結果に気を良くして、より一層の運動と姿勢の矯正に励んだことが、改善スピードのアップにつながったようである。やはり、見える化は、最大のインセンティブであった。

学齢期には必ず実施されていた体力測定は、健康寿命の延伸に国民的関心が寄せられている現在、むしろ中高年層に対してこそ広く実施されるべきではないだろうか。
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