ペーパーでは、気候変動が死亡率の低下をもたらすケースも紹介している。こちらも、みていこう。
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冬季の温暖化により、死亡率が低下する
夏季の熱波の襲来とともに、冬季の平均気温も上昇している。これにより、寒冷に伴う死亡が減少することが期待される。
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温暖な気温に伴って特定地域で農業生産が伸び、死亡率の低下の要因となる
以前は、寒冷のために農業が困難とされていた地域で、気温が上昇した結果、農業生産が可能となっているケースがある。たとえば、主要農産物ではないが、ぶどうの生産が可能となった地域もある。
しかし、このことは降雨パターンの多様化など、極端な事象の増加にもつながっている。このため、農業生産の改善は、極端な事象、食料供給の不安定化、海水面上昇に伴う農業用地の縮小、旱魃の増加などのマイナス面で相殺されてしまうものとみられる。
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二酸化炭素肥沃効果が死亡率低下につながる可能性がある
「二酸化炭素肥沃効果」と呼ばれるものもある。これは、大気中の二酸化炭素濃度の上昇により、植物の炭水化物産出が改善される効果を指す。緑色葉は光合成を行い、太陽光のエネルギーと大気中の水と二酸化炭素から炭水化物と酸素を産出する。二酸化炭素濃度の上昇は、光合成を促進させる。
ただし、しばらくすると植物が二酸化炭素濃度の上昇に順応してしまい、効果は低減するとされる。
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地球温暖化への適応措置が奏功して死亡率低下につながることも考えられる
科学技術利用と人間の行動変化を組み合わせて気候変動の影響緩和が図られている。洪水や暴風に耐性のある建物やインフラ整備が挙げられる。高温に対するエアコンの利用も適応措置の1つである。
エアコンの利用、住居の隔離の向上、公衆衛生インフラの活用は、高温気象の影響を削減する。しかし、温室効果ガスの排出など、措置自体が気候に悪影響に与えてしまう恐れもある。また、エアコンの利用は、アレルギーの増加につながるとの見方もある。このように適応措置には、副作用もある。
さらに、危険な地域からの避難も適応措置となる。しかし、避難に伴って、人々が保有財産を失ったり、地域コミュニティーや地域機関が損なわれたりするマイナスの面もある。このため、プラスとマイナスを加味すると、最終的に、死亡率にプラスの効果があるかどうかは微妙といえる。
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さまざまな緩和効果が死亡率低下を呼ぶことが考えられる
一般に、気候変動に対する緩和措置とは、温室効果ガス排出の削減を指す。この緩和措置には、死亡率の低下とともに、限られた資源の効率活用とそれに伴う資源価格上昇の緩和という効果もある。
(1) 交通
公共交通機関から自動車へのシフトは、気候変動の原因となる。自動車の利用を減らして、公共交通、カーシェアリング、自転車、徒歩による移動を促進することは、有効な措置となる。これらにより、大気汚染が減るとともに、身体活動による健康の増進や、精神的な幸福感の醸成に役立つとされる。さらに、交通事故の減少や健康資源の利用といった効果も考えられる。
(2) エネルギー
化石燃料使用の削減と再生可能エネルギーへの移行は、温室効果ガスなど、汚染の削減につながる。石炭の採掘や燃焼は、大気を汚染し、呼吸器系疾患、循環器系疾患、喘息、悪性新生物など、人々の健康に悪影響をもたらす。森林や石炭から電気や太陽光へのエネルギーの置き換えは、大気汚染を削減すると考えられる。
(3) 農業と食品
農業は、気候変動の重要な要因である。人々の食肉傾向が増すと、農業生産の効率を低下させ、大量の温室効果ガス排出につながる。同時に、酪農品や食肉に過度に偏った栄養摂取は、悪性新生物、糖尿病、肥満関連疾患など、人々の健康にマイナスとなる側面も考えられる。このことは、医療制度に負担増の圧力をもたらしかねない。温室効果ガスの排出緩和とともに、ソーダ課税
16、身体運動の促進といった措置をとることで、人々の健康が改善されるものとみられる。
16 フランスでは、2012年より砂糖の添加された炭酸飲料に課税する「ソーダ税」が導入された。その後、同様の動きが、メキシコやアメリカの一部都市などに広がった。2016年に、WHOはソーダ税の導入を加盟国・地域に呼びかけている。
4――生命保険加入者や年金受給者に与える影響