グローバル化によって人の往来が活発になった現在では、水際で感染者の入国を食い止めるのは難しい。飛行機で移動する場合には、海外で感染しても入国時には発症していないことも多く、その場合には発見するのはほとんど不可能だ。WHOから、日本では「はしか(麻疹)」は排除状態にあると認定されていたのだが、2018年に入ってからも、はしかに感染していた海外からの旅行者が、日本国内で立ち寄った商業施設や飲食店などの従業員や利用客に感染を広げるという事例があった。
2005年に東南アジアで猛威を振るった高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型や、2012年に初めて患者が見つかったMERS(中東呼吸器症候群)では、幸運なことに日本国内で感染者が出ることは無かった。しかし、2002年冬から2003年夏にかけて中国南部を中心に感染が広まったSARS(重症急性呼吸器症候群)では、日本国内では感染者は出なかったものの経済に影響を与え、回復が続いていた景気は一時停滞に陥った。大規模な感染が広がれば多くの人命が失われることになる恐れが大きいだけではなく、経済的に大きな混乱が起こることも避けられない。
果たして、スペイン風邪と同じ程度の、国民の四分の一が感染し、2%が死亡するというような事態に日本は対応できるだろうか?大流行対策は「医療ではなく、国家危機管理の問題」とも言われる(注3)が、法律や制度、組織体制は十分なのか?1998年に伝染病予防法等を統合する形で感染症予防法が制定されたが、2009年に新型インフルエンザが世界的に流行した際に十分な対応ができなかったことから、2012年には「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が制定されている。
喉元過ぎれば熱さを忘れるということわざがあるが、自然災害や事故などでも我々は問題を忘れやすく、必ずやってくる次の災難への備えを怠り勝ちである。それぞれの家庭でも、地震や風水害への備えにもなることでもあり、まずは非常用の水や食料、医薬品などのチェックから手を付けてみてはどうだろう。
注1:Spinney, Laura, "Pale Rider; The Spanish Flue of 1918 and How It Changed The World", Hachette Book Group (2018)
Pale Riderは、蒼ざめた馬に乗った騎士のこと。ヨハネの黙示録に出てくる四人の騎士の一人で、死神であるとされる。
注2: Diamond, Jared, "Guns, Germs, and Steel: The Fates of Human Societies", Norton(1997)、 (邦訳「銃・病原菌・鉄」草思社文庫2012年)
注3:「強毒性新型インフルエンザの脅威」岡田晴恵編(藤原書店2006年)