(2) 箱庭療法
1929年に、イギリスの小児科医ローエンフェルトが考案した「世界技法」という子どものための治療法を、スイスのカルフ女史がユング心理学をもとに発展させて、大人の治療にも用いることができようにしたもの。患者は、砂の入った木の箱の中で、山や川を砂で作ったり、建物、乗り物、人形、動植物、柵などのミニチュアを置いたりして、自由に箱庭の世界をつくる
5。医師等はその様子を観察する。箱庭が完成したら、患者に説明してもらう。ただし、医師等が箱庭の細部にこだわって患者に質問したり、感想を述べたりすることは、患者との良好な関係を損なう恐れがあるため行われない
6。
箱庭をつくる体験を通じて、患者の自己治癒力によって、心理的な葛藤の解決が図られるとされる。箱庭療法は、統合失調症や子どもの不安障害などに用いられる。
5 箱の大きさは、横72cm×縦57cm×深さ7cm。砂を掘ったときに水が出てくるイメージを表すため、箱の内側は青く塗る。
6 なお、箱庭療法は、芸術療法の表現活動の一つの形式ともいえる。
4|洞察療法には、精神分析療法や来談者中心療法がある
患者が抱える葛藤や、性格・考え方の偏りについて、患者自身が気づき洞察してもらい、人格構造の変化を促す。洞察療法の主なものとして、精神分析療法と来談者中心療法がある。
(1) 精神分析療法
オーストリア生まれの精神科医フロイトは、人間の行動や思考は、無意識に左右される部分が大きいとして無意識の研究を進めた。精神分析療法は、無意識を表層に呼び起こすための治療法で、彼が創始した精神分析学がベースとされている。精神科医の中で、特に精神分析のトレーニングを積んだ精神分析医によって行われる。この治療法は、かつては神経症と呼ばれていた不安障害や解離性障害などの患者に対して行われる。具体的な精神分析療法として、自由連想法や夢判断が挙げられる。
1) 自由連想法
患者に長椅子に仰向けに寝てもらい、思い浮かぶことを自由に話してもらう。医師等は、患者の頭のほうの患者から見えない位置に座り、患者が発した内容を書きとめて分析する。
2) 夢判断
スイスの精神科医ユングが考案したもの。睡眠時に患者がみる夢こそ、無意識の表出であると考えて夢の内容を分析する。患者は、寝ている間にみた夢の内容を、治療を行う人に報告する。
フロイトの研究は精神分析療法のみならず、心理学をはじめ、社会、思想、文化など多方面に大きな影響を与えた。一方、精神分析の解釈は治療者の独断や空想にすぎず非科学的である、といった指摘もなされてきた
7。20世紀になるとアメリカでは、客観的証拠にもとづく科学的な心理学の確立を目指して、行動心理学の研究が盛んになった。
7 「最新図解 やさしくわかる精神医学」上島国利 監修(ナツメ社, 2017年)より。
(2) 来談者中心療法
1940年代に、アメリカの臨床心理学者ロジャースが始めた精神療法。来談者
8への指示、批判、説得を排除して、ひたすら話に傾聴して受容することに努める。治療を行う人には、自己一致、無条件の肯定的関心、共感的理解という3つの原則的な態度が求められる。従来の精神療法が「指示的精神療法」と呼ばれるのに対し、この治療法は「非指示的精神療法」とも呼ばれている。