日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が21と前回3月調査比で3ポイント下落し、2四半期連続となる景況感の悪化が示された。一方、大企業非製造業の業況判断D.I.は1ポイント上昇の24となり、わずかながら、2四半期ぶりに景況感が持ち直した。
前回3月調査では、円高や原材料高、大雪、野菜価格高騰、人手不足などの悪材料が響き、大企業製造業で8四半期ぶり、非製造業で6四半期ぶりに景況感が悪化していた。
その後の事業環境はまだら模様だ。堅調な米経済を背景に円高が是正されたうえ、輸出も底堅さを維持。また、インバウンド(訪日外国人)需要も好調を維持している。一方で、世界的なスマホ需要の減速からIT関連材の生産調整が長引いているほか、原油などの原材料価格上昇や人件費増加が企業収益を圧迫し、人手不足も深刻な状況が続いている。
このように強弱材料が交錯している状況だが、大企業製造業では、長引くIT関連材の生産調整や原材料価格上昇などによる悪影響が円高是正による好影響を上回り、景況感が悪化した。一方、大企業非製造業では、好調なインバウンド需要や一部での値上げ浸透を追い風に景況感が改善したものの、家計の根強い節約志向が重石となり、改善幅はわずかに留まった。
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から1ポイント下落の14、非製造業が2ポイント下落の3となった。基本的に強弱材料は大企業と同様であるが、中小企業非製造業は人手不足感が極めて強いことが制約になったとみられ、大企業非製造業とは反対に景況感が弱含んだ。
先行きの景況感については、大企業製造業で横ばい、その他で弱含みが見られたが、前回調査に比べて悪化幅は小幅に留まった。前回調査以降も米トランプ政権は保護主義的な動きに拍車をかけており、(中国からの輸入品に対する巨額の関税賦課を正式に発表、EUなどへの鉄鋼・アルミ関税発動、自動車関税の大幅な引き上げ検討を公表など)、企業の警戒感は高まっている可能性が高いが、事態は未だ流動的で影響も不透明な状況にある。一方で、内外経済の回復期待は続いているとみられ、今のところ、景況感の大幅な悪化は回避されたと考えられる。
ただし、米政権が今後も保護主義姿勢を緩和させなければ貿易摩擦がますます激化し、企業マインドの押し下げに繋がりかねない。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計22、当社予想も22)は予想をやや下回ったが、先行き(QUICK集計20、当社予想は18)は予想をやや上回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計23、当社予想は24)は予想をやや上回ったが、先行き(QUICK集計22、当社予想は21)は予想をやや下回った。
2017年度の設備投資額(全規模全産業)は、前年比4.4%増と前回調査時点(4.0%増)から小幅に上方修正された。
一方、2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比7.9%増と前回調査時点の前年比0.7%減から大幅に上方修正された。前回調査時点でも例年と比べて高めの伸び率であったが、今回の修正の結果、例年に比べて大幅に高い伸び率となった。
例年6月調査では、計画が固まってくることで上方修正される傾向が強いというだけでなく、良好な収益状況を受けた投資余力の改善や、投資家による資金の有効活用を求める圧力、人手不足に伴う省力化投資などが追い風となり、実勢としても強い投資スタンスが示されたとみられる。
なお、貿易摩擦への懸念は設備投資意欲に影を落とす要因だが、事態は未だ流動的であり、企業としてもその影響を設備投資判断に織り込みづらい状況にある。ただし、今後、報復関税の応酬などから貿易戦争の様相が強まり、世界経済に悪影響が出てくれば、設備投資計画が慎重化する恐れが高い。また、そうでなくても、貿易摩擦に対する強い懸念が長期化すれば、悪影響が顕在化してくる可能性が高いため、楽観視はできない。
販売価格判断D.I.は大企業・中小企業ともにやや上昇した。ただし、大企業製造業や中小企業では仕入価格判断D.I.の上昇幅を下回っている。原材料高などに伴う仕入価格の上昇を企業が販売価格に十分に転嫁できていない状況が確認できる。
今回の短観では、大企業製造業の景況感が2期連続で悪化したほか、大企業製造業以外で先行きの景況感の弱含みが示されたが、日銀の金融政策へ与える影響は限定的になりそうだ。景況感の水準自体は高いレベルを維持しているうえ、先行きも今のところ大幅な悪化は回避されている。また、設備投資計画も今のところ順調であることがその理由となる。企業による値上げの動きは鈍いものの、値下げ方向に傾いてはいない。そもそも、日銀の追加緩和余地は殆ど残っていないと考えられ、容易に動けないという事情もある。
日銀は「これまで同様、物価目標に向けたモメンタムは維持されている」との判断のもと、現行の金融政策を維持しつつ、貿易摩擦など下振れリスクの動向、ならびにそれらが企業活動や実体経済へ及ぼす影響を注視するスタンスを継続するだろう。
2.業況判断D.I.:大企業は製造業と非製造業でまちまちに