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不当勧誘に係る改正
不当勧誘に関しては5点の改正案がある。
第一は不利益事実の不告知に関する改正である。現行の不利益事実の不告知は、重要事項について先行的に利益となることを告げ、
故意に不利益となることを告げないという不当勧誘とされている。この条項については、不利益を告げなかったことが故意であることについて立証が難しいとの意見が消費者相談の現場から聞かれ、重過失を加えることとなった。
たとえば先にあげた眺望の良いマンション販売のケースで、目の前にビルが建つことを事業者が「知らなかった」といえばそれ以上の何もできなくなるが、マンションとビルの敷地が同一オーナーのものであったり、地域住民に広く建設計画が知られていたりしたような場合も少なくとも「重過失」で取消可能になると思われる。
この点、保険募集においても不利益事実の不告知が問題となりえる。この点、不利益になりうる項目については「注意喚起情報」にまとめられているので、「注意喚起情報」を確実に消費者に交付することが重要である。
第二と第三は合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型に属する規定で、いずれも新設規定である。
第二は社会経験の乏しいことから、消費者が社会生活上の不安や自分の容姿などに関する過度な不安を有していることに付けこんでその不安をあおりたて、合理的な根拠など正当理由がないのに、その不安解消のためといって物品やサービスなどを売りつけることである。事例としては無料の就活セミナーに呼び出し「あんたは一生成功しない」などと不安をあおり有料講座の受講勧奨をしたような場合である
8。
ところで、この条項については消費者委員会の報告書と法案で異なる部分がある。消費者の「社会経験が乏しいこと」が要件のひとつとして法案では追加されている部分である。これは成年年齢引き下げを意識して付け加えられたと思われるが、この点について消費者委員会側は高齢者等も含めて不当勧誘行為にすべきという認識があったと思われ、食い違いを見せている
9。
この改正案については、保険募集はリスクを訴求して契約の締結を促すものであり、本条項との関係が問題となる。しかし、保険商品にはリスク回避の観点からの合理性があり、かつ顧客意向の把握・確認手順(保険業法第第294条の2)を正当に履行していれば、本規定により取消されることはないものと考えられる。
第三は社会経験が乏しいことから、消費者が勧誘者(事業者)に対して恋愛感情等好意を抱いており、勧誘者も同様に好意を抱いているものと誤信していることを知りながら、契約を締結しなければ関係が破綻すると告げることである。
これはいわゆるデート商法と呼ばれるものであり、勧誘者と消費者が恋人関係にあると誤信させ、その関係を続けさせるという名目で商品等の購入を迫るものである。この規定について2点指摘しておきたい。ひとつは上記第二と同様に法案では「社会経験が乏しいことから」が付加されていることである。
もうひとつは消費者委員会の報告書では「緊密な関係を
新たに築き」とされている部分が法案では落ちていることである。この点は既存の関係を利用することも本規定の射程に入れるもので適用範囲が広がっている。そうすると保険募集では家族ぐるみで人間関係を築いている営業職員と消費者の関係などが問題となりうるが、通常、関係が破綻すると告げることは考えにくく、本規定の適用がある場面はないであろう。
第四と第五は心理負担を抱かせる言動等による困惑類型であり、こちらも新設規定である。
第四は消費者が消費者契約を申し込んでもいないのに、事業者が、契約が締結されたら行うべきことを行ってしまい、原状を回復することを著しく困難にすることである。具体例としてはガソリンスタンドでワイパーやオイルを勝手に交換されてしまい、仕方なく代金を払ったというものが挙げられる
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第五は消費者が消費者契約を申し込んでもいないのに、事業者が調査、情報の提供等消費者契約の締結を目指した事業活動を実施し、正当な理由がある場合でないのに、消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げることである。具体例として、不用品回収業者のトラックを止め、マンションまで来てもらったところ、無料ではない旨を言われ、断ろうとしたものの「このままでは帰れない」とすごまれて契約してしまったケースが挙げられる
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第四と第五のうち、特に第五は生命保険募集では理念的には考えうるものの、過去の苦情の事例動向から見ると一般には起こりにくいものと思われる。
8 前掲注4「報告書」参考事例・条項例集参照。
9 「消費者契約法の一部を改正する法律案に対する意見」(平成30年3月8日、消費者委員会)参照。
10 前掲注4「報告書」参考事例・条項例集参照。
11 前掲注4「報告書」参考事例・条項例集参照。