企業統治について、米国の取締役会が検討すべきテーマとしてNYSEガイドがまず挙げるのは、「取締役会構成」である。日本と米国では、企業統治の変遷や現状は異なっていても、取締役会は企業統治の要であり、その「チーム作り」が重要であることに変わりはない。取締役会について、米国における最近の2つの課題意識を取り上げたい。
最初に、米国企業の一般的な取締役会を米S&P500企業の平均で概観する。取締役会は比較的小規模で平均11名ほどの取締役で構成されている
5。そのうち9名は業務執行を行わない独立(社外)取締役が占め、非独立(社内)取締役は2名にとどまっている。2名のうち1名は最高経営責任者(CEO)であり、もう1名はCEOに準ずる業務執行ポストや創業者であることが多い。米国企業は経営の監督と執行の分離が進んでおり、取締役会が主として経営陣に対する監督を行うことがメンバーの構成にも反映されている
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さて、米国の取締役会で大半を占める独立取締役は、他社の元CEOあるいは現職のCEOであるケースが典型的である
7。経営者の経験は、監督機能の発揮に資するため重視される。企業・経営陣からの独立性が重要であるため、競合企業やその関連事業に関与しない人物が前提となるが、その中で豊富な業界知識を持つ人物を見つけることは難しい。結果として、独立取締役はいわゆるゼネラリストが多くなる傾向にある。独立取締役は、ほとんどが非常勤である上に、就任した会社の事業や業界について必ずしも十分に知識がないため、能力を最大限発揮できないことも少なくないとの指摘もある
8。米国の課題意識の一つは、取締役の独立性を問うあまり、取締役会の実効性を犠牲にしているのではないかという点である。
米国の取締役会は、経営者の指名・報酬、監査といった監督を主体とする一方で、事業環境の変化と投資家の要求に対応する必然として、戦略の議論において有意義な貢献がますます求められるようになっている
9。取締役会によっては、例えばITの専門性や海外新興マーケットの経験が必須となるかもしれない。
その一方で、米S&P500企業の独立取締役は、平均年齢が63.1歳と高く、かつ就任期間も平均8.2年と長い。さらに、独立取締役の平均年齢は、ここ10年で61.0歳(2007年)から63.1歳へ着実に伸びている
10。高齢化に伴い取締役会の「頭が固くなる(entrenched)」懸念もある。このような流れで、米国では「取締役会の刷新(board refreshment)」が企業統治のキーワードとなっているため
11、投資家だけでなく取締役自身にも刷新は定期的に必要という意識が高まっている
12。これがもう一つの課題意識である。
実際、多くの米国上場企業は、取締役に対し就任期間上限と定年年齢を設定している。これらは取締役会の刷新が意識される文脈では刷新を促すツールという見方もある
13。しかし、期間の上限はP&Gで18年、GEで15年であり、定年もほとんどすべての米S&P500企業が72歳以上に設定しているなど、まさに上限の設定であり、取締役会を刷新する最低条件とはなっても、積極的に刷新を促す効果は限定的だろう。刷新に活用する仕組みは、主として年次の取締役会評価である
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3――取締役会評価の活用