テロ保険の浸透-テロのリスクに対して保険の備えは進んでいるか?

2018年03月13日

(篠原 拓也) 保険計理

4――テロ保険の動向

企業保険に加入する企業が、テロ保険に加入するかどうかは、任意とされている。この章では、Marsh社のレポート6をもとに、テロ保険の普及や収支の動向を見てみよう。
 
6 "2016 Terrorism Risk Insurance Report"(Marsh, Jul. 2016)による。同資料では、加入率として、2015年の財産保険契約に組み込まれているTRIPRAの補償に関するMarsh社の顧客のデータ(2,051社)がまとめられている。
1|テロ保険の加入率は約60%と高い
全体の加入率を見ると、60%前後で推移している。近年、大きな変動は見られない。
加入率を企業の業種別に見てみよう。メディア、教育、接客・カジノ(gaming)、医療、金融、不動産、電力の業種が70%台の高い加入率となっている。一方、資源・採掘は、33%と低い。
加入率を地域別に見てみる。ニューヨークやワシントンDCなど、重要施設が多く人口密度の高いメトロポリタンエリアを抱える北東部が70%台と高い。それ以外の地域は、いずれも50%台となっている。
2|テロ保険の保険料は少額
テロ保険は、なぜ加入率が高いのか。その理由として、保険料が少額であることが挙げられる。テロ保険は、一般に企業保険の補償の一部として組み込まれる。テロ損害補償の保険料が契約全体の保険料に占める割合は2.6%と低い。企業保険の種目別に見ると、割合が一番高い飛行機に関する補償でも7.1%。ボイラー・機械の補償では0.7%、海上船舶の補償や製造物責任補償は、1.1%に過ぎない。

さらに、テロリスク補償分の保険料を明示的に徴収せずに、その補償を行うケース(0ドル契約)も23%ある。種目別には、内陸の湖沼河川船舶の補償では74%ものケースで保険料を徴収していない。保険料がないか、もしくは少額であることが、テロ保険の加入率を高めている要因の1つと考えられる。
3|テロ保険の収支は安定している
最後に、収支動向を見てみよう。安定した加入率を背景に、ここ数年、保険料収入は増加している。図表7のとおり、A.M.Best社のデータによると、2003~2015年の13年間の保険料収入は、少なくとも合計242.4億ドルにのぼる7。この間、連邦政府の支援に至った大規模なテロ損害は発生していない。これまでのところ、テロ保険の収支は安定しているといえる。
 
7 図表7の元資料(連邦保険局の報告書)には、A.M.Best社のデータが掲載されている。同データは、同社に報告が寄せられた情報のみを対象としている。このため、本来の収入保険料よりも少ない金額が掲載されているものとみられる。
 

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

世界的に、テロのリスクは高まっている。これまで日本では、1995年の地下鉄サリン事件以降、大規模なテロは発生していないが、海外のテロが国内に飛び火する懸念はある。こうした流れを受けて、国内損保では、企業向けにテロ保険を取り扱う動きが生じている。しかし、テロリスク補償に対する社会のニーズは、欧米ほど強くなく、テロ保険の認知度は高まっていない。

今後、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催をはじめ、2019年のラグビーワールドカップ開催、2025年の大阪万博誘致など、大規模な国際的イベントの開催や誘致が計画されている。ソフトターゲットを対象としたテロのリスクは高まる恐れがある。テロ損害のリスク軽減策の1つとして、テロ保険への注目度が上昇することが考えられる。

今後も、テロの発生と、テロ保険での対応の動向について、引き続き、注視する必要があろう。
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