2|CVSヘルスの概要
(1)買収を繰り返し拡大
1963年にマサチューセッツ州に設立された健康・美容製品販売店が起源で、買収を繰り返し業容を拡大してきた。1967年に薬局業務に手を広げ、1983年に血友病患者の在宅医療を開始する等、簡易な医療行為を伴う業務への拡大にも積極的であった。
現在のCVSヘルスは、米国内に約9,700のドラッグストアを展開し、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスと並ぶ米国2大ドラッグストアの一画に位置づけられる企業である。ドラッグストアではわが国と同じく、医薬品や生活必需品、食品等とともに、処方薬の調剤も行っている。
(2)医療関連業務への傾斜
CVSの近年の業績を見ると、2013年に52%あった化粧品や日用品の小売り販売が総売上高に占める割合が、2016年には46%と50%を割り込むまで低下し、代わって薬剤給付・医療事業が伸びてきている。主なCVSヘルスの医療関連の取り組みは以下の通りである。
1) CVSケアマーク(医薬剤給付管理業務)
CVSヘルスの主な収入源はPBM(=Pharmcy Benefit Manager:薬剤給付管理)業務である。CVSヘルスは2007年に大手PBM会社のケアマークを買収し、PBM三強の一角を占めるようになった。
PBMは、医薬品のコストをおさえたい保険会社や雇用者と契約し、彼らのために製薬会社と価格交渉し、規模の強みを活かして値引きを引き出す役割を果たしている。製薬会社との価格交渉において重要なのが、PBMが作る推奨医薬品リスト(Formulary)である。リストに載ると保険が適用され、載らないと保険適用外となるため薬が売れなくなる。薬価が公的に一元化されるわが国とは大きく異なっている。
PBMの取り扱う処方箋の数が多ければ多いほど、PBMの製薬会社への価格交渉力が高まり、製薬会社は大幅な値引き交渉に応じざるを得なくなる。このためPBM業界では処方箋の取り扱い数を増やすためにスケールメリットを目的として大規模な買収が続いてきた。その結果、現在のPBM業界は、CVSケアマーク、オプタムRx(第1位医療保険会社ユナイテッド・ヘルスのPBM事業)、エクスプレス・スクリプツの3社がほとんどのシェアを占める寡占状態となっている。
医療保険会社としては、薬価が安くなれば最終的に支払う保険金が減り収支改善が見込めることになる。その分保険料を安くすることもできる。
2) ミニット・クリニック(リテール・クリニック)
米国のドラッグストアがわが国のドラッグストアと大きく異なるのは、店舗内に、予防接種や簡単な診療を受けられる「リテール・クリニック」、「ウォークイン・クリニック」等と呼ばれる、ミニ診療所を設けていることだろう。CVSヘルスのリテール・クリニックは「ミニット・クリニック」という名前で、9,700のCVSファーマシーのうち約1,100の店舗に併設されている。CVSヘルスの調査によれば、ミニット・クリニック利用者の95%が「利用してよかった」との感想を持つとのことである。
「WalgreensやCVSが運営するリテール・クリニックが、医療サービスを求める人々にとって現実的に不可欠な存在となっており、これらのクリニックに対する顧客の満足度は、常に医師の診療を上回っている。米国最大のリテール・クリニック・ネットワークであるCVS Healthは、33の州に1,000カ所を超えるクリニックを展開している。『小売店は、医療サービスを受けるための場所となりつつある』と、PwCで米国リテール&コンシューマーリーダーを務めるSteve Barrは述べている(PWC「Total Retail 2017 不確かな未来の備え 小売業に必要な10の投資分野」より)。」
リテール・クリニックには医師が常駐しておらず、ナース・プラクティショナー(特定看護師)と呼ばれる看護師の上級職が診察して処方を行う。休日がなく、予約も不要で、診療代も安い。重篤な疾患の患者は診ないし、手術も行わない。風邪のような軽度の症状に処方箋を出し、病状に大きな変化がない軽度の糖尿病の患者の定期健診を行って薬を出すなどの基本的な医療行為を行っている。予防接種も病院で受けるよりもリテール・クリニックで受けるほうが安いとのことである。
ミニット・クリニックはクリニック数で、リテール・クリニック全体の50%を占める最大手である。
3) ヘルスケア提供体制
CVSヘルスは、「より良い健康を目指す人々を助ける薬局・薬剤の革新企業」を標榜し、以下のようなヘルスケア提供体制を築いている。そして、「これらを通じて、人、企業、地域社会が、より手頃で効果的な方法で健康管理を行うことを可能にする」としている。
- CVSファーマシー店舗・・・9,700
- ウォークイン・クリニック「ミニット・クリニック」・・・1,100
- Omnicare・・・シニア薬剤ケア
- Coram・・・輸液サービス
- CVSファーマシープロフェッショナル・・・4,000人以上。全米の診療所・在宅ベースでケアを提供する専門職
- PBM(薬剤給付管理業務)の対象とするプランメンバー数・・・約9,000万人
- 公的保険メディケアへの「パートD処方薬プラン」の提供