中村 亮一()
研究領域:保険
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エグゼクティブサマリー
規制上のリスクフリー利回り曲線は、保険会社の行動に直接的な影響を与える。プロビジョニングに影響を及ぼし、ヘッジや投資の選択に影響を与える可能性がある。その結果、市場データからのその設計及び導出が重要である。この報告書は、ソルベンシーⅡのレビューと同じくこの利回り曲線を導き出すための方法論について、欧州保険年金監督局(EIOPA)の進行中の作業に情報を提供するために、規制上のリスクフリー利回り曲線のマクロ的な影響を検討している。
規制上のリスクフリー利回り曲線に対するマクロ・プルデンス要件は、市場ベースの曲線の使用を要求している。(1)負債価値の現実的見積り、(2)一貫性のある曲線の導出及び適用、(3)適切なリスク管理インセンティブ、及び(4)プロシクリカルな行動の防止である。最初の3つの要件は、規制上のリスクフリー利回り曲線が市場データに基づいている場合により良い結果が得られる。第4の要件は、保険会社の貸借対照表の市場評価と競合する可能性がある。保険会社のプロシクリカルな行動についてのいくつかの初期的な証拠がある(イングランド銀行(BoE)、2014年、オランダ国立銀行(DNB)、2015年)ので、潜在的な景気循環効果が監視され、これらの影響及び/又はその原因が、例えば、基本的なリスクフリー利回り曲線を超えたマクロ・プルデンスな政策措置を通じて、どのように対処されるべきかの検討が行われる必要がある。
金融市場の流動性が低い、より長期の期限物のための規制上の利回り曲線の導出に関する相違する考え方がある。より長期の期限物については、スワップ市場とソブリン債券市場の流動性が低い。ソルベンシーIIは、市場金利と補外のハイブリッドを用いてこれを考慮している。この報告書では、この設定において、規制上のリスクフリー利回り曲線の関連パラメータがマクロ・プルデンス要件に従って設定されているかどうかを評価する。
規制上のリスクフリー利回り曲線の長期物に対しては、最終流動性点(LLP)と終局フォワードレート(UFR)の現実的な設定、及びそれらの間のコンバージェンスが極めて重要である。ソルベンシーIIは、規制上のリスクフリー利回り曲線の長期物を導き出すために、スミス・ウィルソン手法を適用している。これは、(1)曲線の流動性部分の市場価値、(2)それを超えては市場金利が使用されない満期であるLLP、(3)遠い将来における想定される1年フォワードレートであるUFRの水準、(4)LLPからUFRへの収束速度。このテクニックは、曲線の長期物に、かなり安定したレベルの規制上のリスクフリー利回りを提供する。これらのパラメータの設定は、規制上のリスクフリー利回り曲線を決定する。
2017年4月、EIOPAは、UFRを継続的に導出する方法論を開発した(欧州保険年金監督局、2017a)。これは2018年1月1日以降に適用される。この方法論を使用して、ユーロのUFRは3.65%と計算される。この方法論には、UFRの年間変動額に15bpsの限度値が含まれている。この限度値は、UFRが2018年に4.2%から4.05%に、そして他の事情が同じならば直線的に以後に変更されることを意味する。欧州システミックリスク委員会(ESRB)の大部分のメンバーは、UFRの現在の水準の低下を支持し、もし「長期低位」シナリオが次の10年にわたって続けば、移行はあまりにもゆっくりであるようにみえるとの政策的観察を行った。
この報告書は、現在の市場環境の下で、UFRの今後の引き下げとともに、より低い規制上のリスクフリー利回り曲線をもたらす3つの提案をしている。この報告書の所見は、現在の曲線が保険会社の負債を過小評価し、したがって未実現損失を生み出す可能性があることを示唆している。生命保険会社の支払能力の技術的準備金に対する提案された変更の正確な影響は、規制当局によるリスクフリー利回り曲線への更なる変更についての結論に達する前に、欧州の保険会社の全体の景色を考慮して慎重に評価されるべきである。2016年のEIOPAストレステストで使用された長期低位利回りのストレス曲線との比較は、この報告書に提出された提案の全体的な影響が、上記のストレステストのそれよりも重要でないことを示している。保険会社のデュレーション追求によって引き起こされるようなリスクフリー低利回り曲線の潜在的な第2ラウンド効果が監視され、追加のマクロ・プルデンス政策措置が必要となる可能性がある。
具体的には、報告書は、以下の点を組み合わせた実施が規制上のリスクフリー利回り曲線の導出に、より根本的な変更を要求することを考慮して、1つ以上を検討することを提案する。
・ユーロの規制上のリスクフリー利回り曲線に対して、LLPを導出し、LLPを20年から30年に延長する新しい方法。一般的な流動性指標によると、20年と30年のユーロ・スワップ・レート間の流動性にはほとんど差異がない。ユーロ・ソブリン債券市場における流動性についても同様である。スワップ及び債券市場の流動性に基づいて、ユーロの規制上のリスクフリー利回り曲線のLLPは30年に移行すべきである。
・収束期間(LLPからUFRまで)を40年から100年に延長する。これは、規制上のリスクフリー利回り曲線の非流動性部分を導出する際に、UFRのウェイトを削減し、規制上のリスクフリー利回り曲線の流動性部分のウェイトを増加させる。
・例えば、スウェーデンやオランダの年金基金の規制で行われているように十分に信頼できる市場データが入手できる場合は、曲線の補外された部分を市場データと部分的にブレンドする。単一の満期日に設定されたLLPからリスクフリー利回り曲線を推定する必要があると、その満期前後の金利リスクへのリスクエクスポージャーが過度になり、潜在的にはプロシクリカルなヘッジ行動になる可能性がある。さらに、補外法の特性に基づいて、負債の満期バケットがLLPに近づくと、未実現損失の比較的短期的な実現が必要になる可能性がある。
この報告書で行われた分析は、規制上のリスクフリー利回り曲線のさらに進んだレビューの基礎を提供する。特に、このレポートはユーロに重点を置いているが、EIOPAは規制上のリスクフリー利回り曲線を見直す際に、より広範な通貨の規制上のリスクフリー利回り曲線を分析したいと考えるかもしれない。流動性は時間の経過とともに変化するため、一定の方法論に基づいたLLPの定期的な再評価は正当なものと思われる。
7―まとめ
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