日銀短観(12月調査)~大企業製造業の景況感は11年ぶりの高水準だが、課題も浮き彫りに

2017年12月15日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
 
  1. 日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が25と前回9月調査比で3ポイント上昇し、5四半期連続の景況感改善が示された。D.I.は11年ぶりの高水準。非製造業の業況判断D.I.は23と横ばいに。製造業では主に世界経済の回復を背景とした輸出・生産の堅調な推移を受けて景況感が改善した。景気回復に加えてIT化や人手不足などを受けた設備投資の回復もプラスに寄与した。非製造業では好調なインバウンド需要や株高が追い風となる一方、人手不足の深刻化が景況感の重石となった。中小企業も製造業の改善が目立つ。
     
  2. 先行きについては幅広く悪化が示された。米政権運営の不透明感、北朝鮮情勢の緊迫化、不安定化する中東情勢、中国の経済減速など世界経済を巡る懸念材料は枚挙に暇がないためだ。国内に関しても人手不足のさらなる深刻化が見込まれ、コストの増加や事業運営の制約になることへの警戒が現れているとみられる。企業は先行きに対する慎重な見方を崩していない。
     
  3. 2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比6.3%増と前回調査の4.6%増から上方修正された。例年12月調査にかけては上方修正される傾向が強い。ただし、今回は中小企業の伸びが大きく、全体の上方修正幅(1.7%)は直近5年平均(1.1%)を明確に上回り、12月調査としては2007年度以来の上方修正幅となっていることから、実勢としても底堅さを増していると言える。景気回復や企業収益の改善、人手不足を受けた省力化投資の活性化が背景にあるとみられる。ただし、これまでの収益改善や投資余力拡大の割には物足りなさも残る。
     
  4. 販売価格判断D.I.は小幅に上昇したが、仕入価格判断D.I.の伸びを下回った。原料高に伴う仕入価格の上昇や人手不足に伴う非正規の人件費上昇分の価格転嫁は進んでいない。

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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