中村 亮一()
研究領域:保険
研究・専門分野
システミックリスクと保険業界
金融危機は、保険会社の非保険活動に対する監督監視の欠如を含む、保険業界の規制におけるギャップを明らかにした。例えば、AIG Financial Products CorporationとAIG Securities Lending Corporationの2つのAIGの非保険関連会社は、AIGがほぼ破綻となる状況を引き起こし、それが米国の金融安定性を脅かした。
ドッド・フランク法第113項は、FSOC(金融安定監督評議会)が、もしその会社の重大な財務的苦境あるいはその性質、範囲、規模、スケール、集中、相互関係又はその活動のミックスが、米国の金融安定性に脅威を与える可能性がある場合に、連邦準備制度による監督と強化された健全性基準の対象となるノンバンク会社を指定する権限を与えている。FSOCが第113項により最初に指定した4社のうち3社は保険会社であった。AIG とPrudential Financialは2013年にFSOCによって指定された。MetLifeは2014年に指定された。2016年3月、連邦裁判所の命令により、MetLifeのFSOC指定が取り消され、これはFSOCに上訴され、係属中である。2017年9月、FSOCはAIGの指定を取り消すと発表した。
前述のように、ドッド・フランク法はまた、FSOCに潜在的にシステミックの重要性がある活動を調べる権限を与えている。FSOCは以前に、マネー・マーケット・ミューチュアル・ファンドの規制に関して第120項の権限の下で提案された勧告を発行したが、保険業界のリスクに対処するために、この権限を使用しなかった。
多くのステークホルダーは、 個々の保険会社のエンティティベースのシステミックリスク評価は、保険業界から生じるリスクを軽減するための最良の方法ではないかもしれない、と主張してきた。これらのコメンテーターは、そのような評価は、保険会社のビジネスモデルと預託機関のビジネスモデルとの間の根本的な違いを考慮していない可能性がある、と述べている。最後に、ステークホルダーは、エンティティベースのシステミックリスク評価は、限られた数の会社のみを対象としているため、特に活動や実践がかなりの数の業界参加者によって行われている場合に、システミックリスクの軽減に最適ではない可能性がある、と指摘した。
勧告
財務省の立場は、保険会社のエンティティベースのシステミックリスク評価は、一般的に、保険業界から生じるリスクを軽減するための最良のアプローチではない、ということである。エンティティベースのシステミックリスク評価に焦点を当てるのではなく、保険監督当局は、保険商品や活動から生じる潜在的なリスクや保険業界全体を強化する規制の実施に焦点を当てるべきである。また、FSOCは米国の金融システムにおけるシステミックリスクの特定、評価、対処に対して第一義的責任を担っているが、州が米国における保険業界の主たる監督当局であり、連邦レベルの保険規制は州と協調して実施されるべきである。
IAIS(保険監督者国際機構)
多くの点で、金融危機への国際的対応は米国の対応を反映している。2009年4月、G-20グループは、世界の金融システムを監視し、勧告するFSB(金融安定理事会)を設立した。FSBの主なイニシアチブは、その苦境や無秩序な破綻が、その規模、複雑性、システミックな相互連携性のために、経済活動やより広範な金融システムに大幅な混乱を招く可能性がある金融機関として定義される、システム上重要な金融機関(SIFI)の特定である。とりわけ、IAIS(保険監督者国際機構)は、FSBによりSIFIとして識別されるべき保険会社(グローバルにシステム上重要な保険会社又はG-SIIs)を推薦する責任がある。
2013年にIAISは、G-SIIsとしての資格を有する可能性がある保険会社のFSBへの勧告を通知する評価方法を開発した。2013年7月、FSBはIAIS及び各国当局と協議して、最初の9社からなるG-SIIsのリストを特定した。潜在的な特定のための毎年のプロセスが引き続いて実施され、毎年9社のG-SIIが特定されてきた。
2016年11月、FSBはG-SIIsのリストを発表し、2017年にIAISは、G-SIIsのエンティティベースの評価アプローチを補完するものとしてシステミックリスクに対処する活動ベースのアプローチを探求する意向を発表した。単一の保険会社が幅広い金融システムに脅威を与えている程度に焦点を当てたエンティティベースのアプローチとは異なり、活動ベースのアプローチは、金融安定性に関連する可能性のある脆弱性を評価するために、保険会社全体のリスクを検討する。
2017年1月、IAISは、活動ベースのアプローチを通じてシステミックにリスクのある活動を評価し、測定し、システミックリスク測定におけるセクター間の一貫性を改善する責任を有するシステミックリスク評価タスクフォースを設立した。タスクフォースの作業計画は、2017年に最初のコンサルテーションペーパーを公表し、2018年後半に第2のより詳細なコンサルテーションペーパーを公表することを含んでいる。これらのコンサルテーションは、活動ベースの評価の開発に関するステークホルダーからのインプットを求めることになる。
勧告
財務省は、FIOとIAISの他の米国のメンバーが活動ベースのアプローチに関するIAISの取り組みを支援することを勧告している。そのようなアプローチは、グローバルな保険市場における潜在的なシステミックリスクを評価するより適切な方法である。IAIS の米国メンバーは、米国の保険市場に比例し適切に調整された活動ベースの枠組みの開発を支持すべきである。 活動ベースのアプローチを認識して、IAISは、2014年の流動性管理及び計画に関する指針を改善する方法を含む、既存のG-SIIs政策措置を再評価すべきである。
財務省はまた、FIO及びIAISの他の米国のメンバーが、IAISのG-SII評価方法を改善し、評価方法論の開発に関して透明性を高める方法を検討するために、措置を取ることを勧告している。IAISの米国メンバーは、保険会社の潜在的なグローバルシステミックリスクをよりよく評価できるようにIAISが、銀行監督に関するバーゼル委員会との協力などを通じて、他の金融セクターとのセクター間の整合性に関する作業を強化していくことを主張すべきである 。