オフィス市場は好調継続。リート市場の低迷でJREITによる物件取得が減少。~不動産クォータリー・レビュー2017年第3四半期~

2017年11月09日

(竹内 一雅)

5.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
主要都市のオフィス市場は極めて好調だ。東京では今年最大の賃貸オフィスビルの供給である赤坂インターシティAIRが8月にほぼ満室で開業した。日経不動産マーケット情報によると、東京都区部で今後の約一年間に供給される大規模オフィスビルの内定率は66%に達するという。

竣工予定の大規模ビルへの内定が進んでいるだけでなく、既存ビルでも需要は堅調だ。三幸エステートによると東京都心部Aクラスビル4の空室率は2.6%へと低下した。成約賃料(オフィスレント・インデックス)は前期比▲1.0%の下落と、高値圏での一進一退が続いている5(図表16)。

東京のオフィスビルの空室率は規模に係らず改善し、大規模ビルでは新宿区で0.99%、渋谷区で1.00%とほぼ空室がない状況にある(図表17)。当面は市況悪化の懸念はほぼなくなったが、ニッセイ基礎研究所では今後の東京都心部での供給増加に伴う二次空室の増加で、Aクラスビルの賃料は2018年下期から小調整が始まると予測している(図表18)。

地方主要都市では東京を上回る活況にある。大規模ビルの空室率は札幌と福岡で東京都心5区を下回る。空室率の低下を受け、札幌市ビジネス地区では募集賃料の上昇が全地区に波及している(図表19、20)。地方都市では新規供給が少ないこともあり、今後2~3年は活況が続くと考えられる。
 
4 Aクラスビルは、エリア(都心5区等)、延床面積(1万坪以上)、基準階面積(300坪以上)、築年数(15年以内)などを条件とするガイドラインから、三幸エステートが個別ビル単位で選定している。エリア(都心5区等)内に立地し、基準階面積200坪以上でAクラスビルに該当しないビルをBクラスビル、基準階面積100坪以上200坪未満のビルをCクラスビルとしている。
5 好調な企業業績を背景にテナントのオフィス需要は活発だが、日本経済新聞によると、新築のオフィスビル賃貸料指数は下期としては3年ぶりに下落するなど天井感も見え始めたという(2017.10.4朝刊)。なお、森ビルによると、東京都区部では2018年から20年にかけて、供給が少なかった17年と比べ年平均で1.8倍の大規模ビルの供給が計画されている。
(2) 賃貸マンション
主要都市のマンション賃料指数は上昇基調にある。特に札幌と大阪では今年に入ってから比較的大幅な上昇がみられた。東京都区部をタイプ別に見ると、横ばいが続いてきたファミリータイプの賃料が2016年後半から上昇に転じている(図表21)。

アットホームによると、賃料が上昇傾向にある一方で、首都圏の居住用賃貸物件の成約件数は、2017年6月まで16ヶ月連続で減少(前年同月比、以下同じ)してきた。しかし、7月以降、3ヶ月連続で成約件数は増加するなど成約状況に底打ちの兆しがある(図表22)。成約件数は、東京都区部と東京都下で顕著な増加となる一方、埼玉県では6ヶ月連続で減少するなど減少が続いている。

高級賃貸マンションでは空室率が6.0%まで低下し需給は逼迫している。好調な需要を背景に、賃料も上昇基調が続いており、2017年Q3期は16,546円/坪と、前年比で6四半期連続の上昇となった(図表23)。
(3) 商業施設
2017年7-9月の小売販売額は前年比+2.0%で4四半期連続の増加となった。既存店の販売額は百貨店で同+1.4%、スーパーで同+0.4%、コンビニエンスストアで同▲0.3%だった(図表24)。

百貨店では株式市場の好調から富裕層の高額消費が活況で、気温低下のため晩夏・秋冬物を中心に衣料品も好調だった。また、外国人客の購買額が、購買客数の増加(9月は前年同月比+48.6%)と購買単価の回復(同+25.0%)から過去最高額(同+86.4%)を更新している(図表25、26)。

主要商業地区の店舗需要は概ね堅調だが、CBREによると退店事例も徐々に増えており、中心部から離れた店舗では後継テナントのリーシングに苦戦するケースもみられるようだ6。また、主要商業地区中心地の1階募集賃料は高止まりの状況にある。日経不動産マーケット情報によると、1階募集賃料は近年、上昇が続いていた銀座や表参道で停滞しており、1階以外の賃料は上昇傾向にあるが表参道では上昇がストップするなど留意が必要という(図表27)。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの調査では、一等地(ティア1)の賃料は銀座で月坪40万円、表参道、原宿、青山で30万円、新宿で28万円、心斎橋・御堂筋で25万円、渋谷で20万円、池袋、梅田で15万円、吉祥寺、栄で12万円だった7
(4) ホテル
2017年7-9月の訪日外国人旅行者数は744万人で前年同期比+18.8%の増加で、過去12ヶ月の累計は2,726万人に達した(図表-28)。このペースで進むと2017年の訪日外国人旅行者数は2,850万人程度になり、日本の国際観光客数受入れ順位は2016年の16位から12位程度まで上昇すると思われる(図表29)。訪日客数は主要国ごとに見てもほぼ各月の過去最高を更新しており、8月からは中国からの訪日客も今年の1月以来となる前年比+20%を上回るなど好調だった。

宿泊・旅行統計によると、7-9月の宿泊施設への延べ宿泊者数は1億4,076万人泊で前年比+0.5%とわずかな増加にとどまった。外国人宿泊者数が大幅に増加(同+221万人、同+12.7%)した一方で、日本人の延宿泊者数が減少(同▲152万人、同▲1.2%)したためである(図表-30)。

ホテル供給が増加し宿泊者数が前年比微増だった中でも、主要都市の7・8・9月の客室稼働率は全国平均で昨年を上回る高水準で推移している(図表31)。STRの調査では、全国平均でみると客室単価(ADR)も上昇し、一室当り売上高(RevPAR)は7・8・9月の各月全てで前年同月比上昇した8

10月27日に、政府は民泊の解禁日を2018年6月15日とするとともに、民泊の解禁を定めた「住宅宿泊事業法」の施行令と施行規則を公布した。施行令等では、民泊を規制する条例を自治体が制定する場合の条件や、民泊運営者・管理業者・仲介業者による届出や必要な管理体制等のルールを明確にした。民泊の解禁に伴い、観光庁は民泊の宿泊状況について、来年度から家主からの情報を元に宿泊日数などを公表することとしたようだ9,10
 
8 STRによると、東京と大阪では7月と9月にADRが低下している。稼働率の上昇幅が高かったため、RevPARは東京では7・8・9月の各月全てで上昇したが、大阪では7月と9月に低下となった。なお、全国的にADRは上昇局面から横ばい局面へと入っている。特に大阪では2016年夏頃から前年比でマイナスとなる月が多くなっている。
9 日本経済新聞「民泊統計を公表へ 観光庁、宿泊日数など」2017.10.20朝刊。記事では、三井住友トラスト基礎研究所の調べとして、東京の宿泊施設全体の1割程度が民泊とみているという。
10 「週刊ホテル・レストラン」2017.9.8号の「新規開業ホテル動向分析<東京編>」の記事によると、Airbnbをはじめとした民泊が訪日外国人向けにマーケットを拡大したことで低付加価値型ホテルにおいて客室単価の大幅な低下がみられるという。
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