2|各社が提出したORSA報告書に対するBaFinの意見
BaFinは9月のBaFin Journal
7において、「ORSAの分析:品質は向上したが弱点も明らかだ」を掲載している。さらに、その後10月4日にWebサイトで英語版「BaFin analysis: quality improved but weak spots still evident」を公表
8している。
これらの報告書によると、「ORSAの報告は、全体的に良い方向に向かっており、多くの保険会社は、市場リスク、デフォルトリスク、保険引受リスク等主要なリスクを集中的かつ細かく取り扱っている。オペレーショナルリスクの評価もまた、初期報告と比較して改善されている。」と評価している。
一方で、弱点も見受けられるとして、以下の9つの項目を挙げている。
(1) 情報の深さ
(2) データの適時性
(3) アドホックORSA報告書
(4) 全体的なソルベンシーニーズの評価
(5) 規制資本要件と技術的準備金の要件
(6) マネジメントの役割
(7) リスク評価の範囲
(8) ストレステストの品質
(9) SCR前提からのリスクプロファイルの逸脱の評価
それぞれの項目についての概要は、以下の通りである。
(1) 情報の深さ
ORSA報告書には、提示された数値及び結論が基礎としている前提、方法、計算及び合理性が示されておらず、BaFinは将来の報告書がより多くのバックグラウンド情報を含むことを期待している。
(2) データの適時性
多くの会社は前会計年度の年次財務諸表からのデータに依存しているが、BaFinは、使用されるデータの期限を制限する要件を設定することを検討している。
(3) アドホックORSA報告書
リスクプロファイルの大幅な変更に起因して会社によって作成されるアドホックなORSA報告書がわずかしか報告されていないが、会社は、アドホックORSAを実施している限り、いつもその結果を報告しなければならない。
(4) 全体的なソルベンシーニーズの評価
全体的なソルベンシーニーズを評価する際に、会社は、ソルベンシー指令やソルベンシーII委任法に規定されている経済的評価概念から逸脱する可能性があるが、その場合には、逸脱の合理的な正当化を提供しなければならない。
多くの会社のORSA報告書は、全体的なソルベンシーニーズを評価する際に使用した信頼度または安心度のレベルを明記しておらず、レピュテーション及び戦略リスクのような、標準式を使用して定量化できないためにSCR計算において考慮されない追加的な重大なリスクに対する潜在的な資本要件の評価を行っていない。
殆どの保険会社は、必要とされる中期的な期間を検討し、その半数は5年の見通しに基づいているが、ORSA報告書では3年未満の予測しか提供していない会社もある。
(5) 規制資本要件と技術的準備金の要件
将来の数年間にわたるSCRやMCRや自己資本の想定値の予測に関して、ただ単に結果数値を報告するだけでなく、BaFinは、予測の基礎となる内部と外部の条件についての前提や数値がいかに得られるのかについての詳細に関する情報、目標カバレッジ率の水準や会社が特定した水準のモチベーションについての情報を期待している。
技術的準備金の要件の遵守の問題に対しては、要件遵守に関する潜在的な将来の問題や要件遵守のアクチュアリアル・ファンクションの評価等に関して、より詳細な情報を期待している。
ボラティリティ調整やマッチング調整などの長期保証(LTG)措置や技術的準備金やリスクフリー金利の移行措置を適用する会社は、規制資本要件への継続的な遵守や技術的準備金の要件を評価する時に、これらの措置を適用した場合と適用しない場合の両方の評価を行うが、ただ単に中期的な定量的影響を記載するだけでなく、その特定された影響が意味するところ、そしてこれからどのような結論を導き出したのかについて検討して、報告しなければならない。
会社が長期的なリスク負担能力を維持することに問題があるかどうかを決定して、難点を特定した場合は、ORSA報告書は、原因、影響及び解決策とそれらの正当化の詳細を提供しなければならない。
(6) マネジメントの役割
BaFinは、ORSA報告書において、経営陣の戦略的決定における経営陣の貢献やORSA結果がどのように引き出されたのか、さらにどの潜在的な戦略的決定がORSAにおいて検討されたのか、結果がどうだったのか、についてのより詳細な情報を期待している。
(7) リスク評価の範囲
特段の記述は無い。
(8) ストレステストの品質
BaFinは、どのシナリオがどのような理由で選択されたのか、ストレステストの結果が正確にどのようなものだったのかについて等、保険会社によって実施されたストレステストに関するより詳細な情報を含むことを期待している。
(9) SCR前提からのリスクプロファイルの逸脱の評価
SCRの計算の基礎となる前提のそれぞれのリスクプロファイルからの逸脱の重要性を評価するために、多くの会社は、過小や過大に評価されたリスクの「相殺」を行っているが、これが可能となる条件がどの程度満たされたのかをORSA報告書に記載しなければならない。