生命保険の約款に、生命保険に加入する際の被保険者の年齢を定義する条項が置かれたのは、1927年8月に作成された生命保険会社協会(現生命保険協会)「模範普通保険約款草案」からである。
1899 年6月新商法が、1900 年7月旧保険業法が施行された。
新商法では生命保険契約に関する基本的事項が、旧保険業法では生命保険契約についての顧客との約定である普通保険約款に記載すべき事項が法定され、また、保険業法施行規則では保険証券に普通保険約款の全文記載または添付が要請されたことを受け、生命保険会社協会の前身である生命保険会社談話会により、1900 年10月、普通保険約款の基準となるべき「模範普通保険約款」が制定された。
1911年10月、商法改正を受け、生命保険会社協会は模範普通保険約款を改正、さらに 1927年8月に模範普通保険約款草案が作成されたものである
3。
1900 年制定版や1911 年改正版の模範普通保険約款には、被保険者の年齢に誤りがあった場合の処理方法については規定があったが、年齢の計算方法については規定がなく、1927年の模範普通保険約款草案でつぎのとおり新設された条項である。
「第22条 被保険者の年齢は満年を以て計算し1年未満の端数あるときは6箇月以下を切捨て6箇月を越ゆるものは之を1年とす」
この条項については、
「被保険者の年齢計算法に関しては旧約款(筆者注:1911 年改正版の模範普通保険約款)に相当条項なし。改正草案は保険界の慣行を其儘採用して一規程を挿入したり」
4
と説明されており、保険年齢方式は昭和初期にはすでに保険業界の慣行であり、この慣行を約款上明記したことがわかる。
被保険者の年齢計算方法については、模範普通保険約款草案起草者の一人から、「端数切捨法」(満年齢で計算し、端数を切り捨てる方式。現在の満年齢方式)、「端数切上法」(満年齢で計算し、端数を切り上げる方式。当時の英国保険会社が採用)、「最近誕生日法」(満年齢で計算し、端数は近接した年齢に切り捨てまたは切り上げる方式。現在の保険年齢方式)の3種類があり、模範普通保険約款草案は最近誕生日法を採用したと指摘されている
5。
なお、1936年4月時点の生保会社28社の約款のうち、模範普通保険約款草案に規定する年齢の計算方法に関する条項があるのは23社で、すべて保険年齢方式を採用している(簡易保険も同様に保険年齢方式を採用:当時の簡易生命保険令第5条)
6。
3 小著「約款の平明化について」『ニッセイ基礎研所報』Vol.57、2010年9月。
4 生命保険協会『昭和生命保険資料第1巻 初期(1)』721~731ページ、1970年12月。
5 磯野正登『生命保険約款釈義』216~217ページ、保険経済社、1936年8月。
6 生命保険会社協会『昭和11年9月 生命保険約款集 附簡易生命保険法令』408~414ページ、734~735ページ、1936年9月。
4――現在の保険年齢方式、満年齢方式の採用状況