55 子宮体部に付着している胎盤が、妊娠中または分娩経過中の胎児娩出以前に、子宮壁より剝離する状態。剝離部位によって外出血をみる場合と、剝離した胎盤と子宮の間に溜まった外出血をみない潜伏出血とがある。(「研修コーナー」(日本産科婦人科学会, 日本産科婦人科学会誌 64巻1号, 2012年1月)より)
56 溶血(Hemolysis, 赤血球が破壊され、その成分が血漿中に出る現象。(「広辞苑 第六版」(岩波書店)より))、肝酵素上昇(Elevated Liver enzymes)および血小板減少(Low Platelet)をきたす疾患で、妊娠高血圧症候群の一病型として知られている。(「症例から学ぶ周産期医学2)妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群) HELLP 症候群」(日本産科婦人科学会, 日本産科婦人科学会誌 57巻9号, 2005年9月)より)
57 妊娠高血圧症候群と共通の病態を有しており、HELLP症候群と似通った臨床経過をたどる。診断には肝生検が必要とされる。(「D. 産科疾患の診断・治療・管理 10. 異常分娩の管理と処置 17)HELLP症候群, 急性妊娠脂肪肝」(日本産科婦人科学会, 日本産科婦人科学会誌 60巻5号, 2008年5月)より)
58 慢性の特殊な炎症が口から肛門までの消化管のどの部分にも起こるが、小腸、大腸、肛門の周囲によく見られる。炎症の結果、潰瘍ができて腸が硬くなり、ときに出血することがある。腸から体の内外に細いトンネルが通じたり(瘻孔)、腸が狭くなってつかえたり(狭窄)することもある。原因は不明で、指定難病の1つとされている。(「患者さんと家族のためのクローン病ガイドブック」(日本消化器病学会, 2010年9月30日)等より)
59 病因不明の難治性疾患で再燃と寛解を繰り返す。一般に発症時に重症や全大腸に病変のある症例をのぞくと長期経過とともに病勢が安定する症例が多い。指定難病の1つで、クローン病とともに特発性炎症性腸疾患と総称されている。(「潰瘍性大腸炎の長期経過」松本誉之(日本消化器病学会, 日本消化器病学会雑誌 Vol.106(2009), No.7)等より)
3|出産後には、女性ホルモンの急激な変化により、産後精神障害が生じる場合がある
出産は、女性の心身に大きな影響を与える。出産前後で、女性のホルモンバランスは大きく変化する。そのため、出産は、身体的負荷のみならず、精神的負担も大きいとされる。代表的な産後精神障害として、マタニティーブルーズ、産後うつ病、産褥精神病が挙げられる
60。通常、出産前には、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが大量に分泌されているが、出産後には、これらは急激に減少する。この女性ホルモンの変化が、産後精神障害の原因と考えられている。
(1) マタニティーブルーズ
マタニティーブルーズは、軽度のうつ状態で、産後5日以内に発症し、2週間で寛解
61する。産後うつ病の危険因子とされており、経過観察が必要となる。
(2) 産後うつ病
産後うつ病は、軽度~重度のうつ状態で、多くは、産後2~5週に発症するが、出産してから数ヵ月後に発症することもある。発症してから2~6ヵ月経過後に、寛解となることが多い。しかし、一部には、数年に渡って、うつ状態が持続する場合もある。
(3) 産褥精神病
産褥精神病は、急性精神病状態で、精神科での診療を要することが多い。出産してから2週間以内に、急性に発症する。発症してから数週間から数ヵ月で、寛解する場合が多く見られる。しかし、一旦寛解した場合でも、再発することが多い。また、一部は、寛解せずに、症状が持続する。
産後精神障害の診察では、希死念慮
62や、自殺企図の有無に、注意が必要とされる。治療には、通常のうつ病と同様、薬物療法が行われる。しかし、授乳中で、薬物療法に抵抗がある場合には、支持的精神療法
63や、認知行動療法
64といった薬物を用いない治療法がとられることもある。
60 日本人の場合、マタニティーブルーズと、産後うつ病は、比較的高い頻度で見られるが、産褥精神病はまれとされている。(「女性医療とメンタルケア」久保田俊郎・松島英介編(創造出版, 2012年)等より)
61 病気そのものは完全には治癒していないが、病状が一時的あるいは永続的に軽減または消失すること。特に白血病などの場合に用いる。(「広辞苑 第六版」(岩波書店)より)
62 具体的な理由はないが漠然と死を願う状態。(「デジタル大辞泉」(小学館)より)
63 治療者が、受容的な態度で、患者の悩みや不安をよく聴き、気持ちや考えなどに共感して、それを支持することで、患者の回復や精神的な自立を促す療法。患者の訴えに対して、良い、悪い、間違っているといった価値判断はしない。また、安易に励ますこともしない。(「女性医療とメンタルケア」久保田俊郎・松島英介編(創造出版, 2012年)等より)
64 患者の認知・思考の歪みに働きかけて、認知と行動変容を促し、患者が当面の問題への効果的な対処法を習得することを目的とする療法。(「女性医療とメンタルケア」久保田俊郎・松島英介編(創造出版, 2012年)より)