40 「あなたも名医! プライマリケア現場での女性診療 押さえておきたい33のポイント」(日本医事新報社, jmed mook47, 2016年12月)の「第4章2 子宮がん検診」などより。
8|HPVワクチンは、積極的な接種勧奨が中止されている
世界的に、HPV感染に伴う、子宮頸がんに対する予防の必要性が高まってきた。日本では、2010年より、中学1年生~高校1年生までの4つの学年の女子生徒に対して、公費でのHPVワクチンの接種が開始された。2013年4月には、定期接種化され、その結果、接種率は70%超となっていた。
そのような中で、2013年3月頃、接種後に、慢性疼痛や運動障害を発症するケースが、複数、報告された。これを受けて、厚生労働省は、2013年6月に、HPVワクチンの積極的な接種勧奨を中止した。
2016年4月に、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本感染症学会など、予防接種推進専門協議会に参加する15の学術団体と、同協議会非参加の2団体が共同で、HPVワクチン接種に関する見解を示した。その中で、ワクチンの有効性が示されたことと、ワクチンの有害事象や接種後に生じた症状への相談体制が整備されたことを理由として、HPVワクチンの積極的な接種勧奨を提言している。
一方、HPVワクチン接種後に、慢性疼痛などの重い副反応を呈した患者は、各地で薬害訴訟を提起しており、現在(2017年7月)、その審理が続いている。厚生労働省は、「現在、因果関係は不明ながら、持続的な痛みを訴える重篤な副反応が報告されており、その発生頻度等について調査中」(同省の説明資料
41より抜粋)としている。調査結果と、今後のHPVワクチン接種の取扱いの判断が注目される。
41 「ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種の対応について(勧告)」(厚生労働省健康局長, 平成25年6月14日, 健発0614第1号)の別紙より。
(参考) 女性アスリートの無月経や月経異常
思春期から性成熟期にかけては、女性アスリートにとって、体力を増強し、競技技術を向上させる重要な時期にあたる。そうした状況下で、アスリート本人、親、指導者の中には、月経は厄介なもの、といった、誤った考え方を持つケースがあると言われている
42。
アメリカでは、1992年に、スポーツ医学会が女性アスリートに多く見られる疾患として、摂食障害、無月経、疲労骨折を挙げている。その後、2007年に、摂食障害は、利用可能なエネルギーの不足に変更された。日本では、利用可能なエネルギー不足、無月経、骨粗鬆症の3つが、「女性アスリートの三主徴」とされている。女性アスリートの指導者は、その予防対策について理解を深めつつ、トレーニング強度・頻度などの調整や、体重コントロールに留意していくことが必要とされている
43。
典型的なケースとして、女性アスリートは、競技のパフォーマンス向上のために、食事の量を減らして、体重を落とすことで、結果として無月経になることがある。その場合、エストロゲンの分泌量が減り、骨密度が低下する。本来、10歳代後半から20歳にかけては最大骨量を獲得する時期であるが、無月経が続くと、骨量が増加しない。このため、運動負荷による疲労骨折を起こすことがある。
国立スポーツ科学センターが、2014年に公表した、女性の国内トップアスリートを対象としたアンケート調査によると、無月経や月経異常のあるアスリートの割合は、約40%にのぼった。競技別に無月経の割合を見ると、体操は75%。新体操は、40%。フィギュアスケート、陸上(長距離)、トライアスロンは25%以上と、審美系や持久系の競技において、高い割合となった。