予算教書で示された債務残高(GDP比)削減は可能か-大型減税と債務残高の削減を同時に達成することは困難

2017年06月28日

(窪谷 浩) 米国経済

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予算教書の検証(2):税制改革(減税等)による歳入減を見込まず
今回の予算教書では、減税などの税制改革に伴う歳入減少などの影響を見込んでいない。税制改正に伴う債務残高への影響額については、4月下旬に発表された税制改革骨子が僅か1枚ものの資料に留まっており、専門家の間でも試算が困難との声が大きい。選挙期間中に提示された選挙公約を基づくシンクタンクの試算では、タックス・ポリシー・センターが10年間で6.2兆ドル6、タックス・ファウンデーションが4.4兆ドルから5.9兆ドル7としている。これらは税制改革骨子の発表前に試算されたものである。一方、CRFB(Committee for Responsible Federal Budget)は唯一、税制改革骨子を踏まえた試算を発表している。
CRFBによると、トランプ政権によって提示された税制改革案では、個人所得税率の引き下げが27年度の債務残高を1.5兆ドル増加させるほか、法人所得税率引き下げ(2.2兆ドル)、パススルー事業体の税率引き下げ(1.5兆ドル)などで、合計5.5兆ドル債務残高を増加させるとしている(図表11)。さらに、支払い利息まで含めると合計6.2兆ドルの増加が見込まれている。CRFBの推計は、昨年発表された前記のシンクタンクの試算と概ね同じような金額になっている。
ここで、CRFBのコスト試算額を単純に、予算教書および、前述の予算教書から成長率想定を1.1%引き下げた場合のそれぞれについて債務残高(GDP比)を試算した。この結果、予算教書に歳入減などの影響を加味した場合の27年度債務残高(GDP比)は80%、一方、同じく予算教書から成長率を引き下げて歳入減などの影響を加味した場合では102%まで増加することが分かった(図表12)。

トランプ政権は税制改革だけでなく、インフラ投資拡大や規制緩和などの成長重視の政策を実施するとしており、成長率にプラスの効果が期待されている。それでも、トランプ政権が提示する今後10年間で平均2.9%は達成困難との見方が多い。このため、税制改革に伴う歳入減などの影響を加味した27年度の実際の債務残高(GDP比)は、成長率が高まる最も楽観的な想定の80%と、成長率が高まらない最も悲観的な想定の102%の間となる可能性が高い。
   

4――結論

4――結論

これまでの検証の結果、予算教書は財政赤字や債務残高について大幅に削減する意欲的な目標を提示しているものの、非現実的な成長率や税制改革コストを無視して計算されており、現実的には良くて現状から横這い、減税によって成長率が高まらない場合には債務残高(GDP比)がCBOベースラインを超える増加を示すことが分かった。このため、非現実的な水準に成長率を想定したとしても税制改革に伴う債務残高の増加は不可避である。

5月下旬の予算教書提出を受けて議会で予算編成議論が本格化している。前述したように米国では財政赤字削減のための歳出上限などの仕組みがあるものの、これまで有名無実化しており機能してこなかった。トランプ政権でもメディケアやメディケイドの歳出削減につながるオバマケアの見直し議論では、野党民主党が反対しているほか、与党共和党内の意見集約も出来ておらず、大幅な歳出削減で合意するのは政治的に困難な状況となっている。

予算教書については、既に与野党問わず議会から実現可能性に対して疑義の声が挙がっており、今後大幅な見直しは不可避となっている。大幅な歳出削減が期待できない中で、債務残高(GDP比)の大幅な増加に繋がる可能性がある減税案については規模の縮小も含め見直しが必至だろう。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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