コラム

交絡因子の考察-因果関係を検討する際に、注意すべきポイントは?

2017年06月05日

(篠原 拓也) 保険計理

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人々の健康状態や、人がかかる病気について、統計学を用いて解明する学問分野として、疫学がある。疫学では、昔から、人、原因、環境の3つの要素が揃ったときに病気が起こる、という考え方が論じられてきた。
 
例えば、日本では、毎年、冬の時期にインフルエンザが流行する。インフルエンザは、インフルエンザウィルスが原因とされている。このウィルスへの対処として、ワクチンを接種することで、インフルエンザを予防する取り組みが行われている。しかし、ウィルスに感染したとしても、必ず、インフルエンザを発症するという訳ではない。人によって、発症したり、しなかったりする。一般に、体力の弱い乳児・幼児や、高齢者は、発症しやすい一方、青年・壮年世代の人は、体内の免疫機構がウィルスを抑えて、発症に至らないことが多い。
 
また、同じような体力を持つ人でも、置かれた環境によって発症の有無に違いが出ることがある。例えば、職場や学校で、トイレの洗面所に石鹸を常備していて流水での手洗いを励行している場合と、そうではない場合とでは、ウィルス感染の拡大に違いが出ることが考えられる。
 
疫学は、人が病気にかかることの因果関係を解き明かすことを、主なテーマとしている。Aという原因があって、その結果、Bという病気になる、ということを示す訳である。その際に、問題となるのは、A、Bとは別に、Cという事象があって、これがAとBの間の因果関係に影響を及ぼすような場合だ。このようなCは、「交絡因子」と呼ばれる。
 
ここで、厳密には、Cが交絡因子であるとは、(1) 事象Cが原因Aと関連がある、(2) Cが結果Bに影響を与える、(3) CがAとBの中間因子ではない、という3つの条件を満たすことを指す。これをイメージ図で表すと、次のようになる。
疫学の因果関係の検討では、交絡因子の存在を疑ってかかることが重要となる。交絡因子を無視すると、次のような、意外な因果関係が導かれてしまうことがある。
 
最近の研究で、コーヒーには、血管内で血液が固まってできる血栓を縮小させる効用があるため、血栓による脳卒中や急性心筋梗塞を予防する効果があることが明らかにされつつある。しかし、ある調査では、これとは逆に、コーヒーをよく飲む人は、脳卒中を起こしやすいとの因果関係が導かれた。
 
このようなときは、交絡因子の存在を疑ってみる必要がある。同様の疫学調査で、よく見られるのは、喫煙が交絡因子となっているケースだ。実際に、この調査では、コーヒーを飲む人に、喫煙をする人が多く見られた(条件(1))。また、喫煙は、脳卒中の発症予防に影響を与えることが知られている(条件(2))。更に、喫煙は、コーヒーと脳卒中の中間因子ではない(条件(3))。このため、喫煙は、コーヒーの飲用(原因)と脳卒中の発症予防(結果)における、交絡因子の条件を満たすことになる。この調査では、喫煙の影響を除いて、因果関係を検討し直すことが必要となるだろう。
 
交絡因子の影響を除外するための方法は、いくつか知られている。例えば、上記のコーヒーと脳卒中の因果関係のケースでは、喫煙者を調査対象から外すことが考えられる。また、コーヒーをよく飲む集団と、あまり飲まない集団の、喫煙者割合を均一にするよう、2つの集団に喫煙者を均等に含めることも考えられる。このように、調査対象をコントロールすることが、1つの方法となる。
 
もう1つの方法として、調査段階ではなく、調査結果を分析する段階で、交絡因子の影響を見ることが考えられる。例えば、コーヒーをよく飲む集団をひとまとめにせず、喫煙者と非喫煙者に分けて4つの集団について分析する。また、多変量解析という手法により、コーヒーの飲用と喫煙をそれぞれ脳卒中の発症要因と見て、脳卒中への影響度合いを見ることも分析方法の1つとして挙げられる。
 
因果関係の分析で悩ましいのは、この調査の喫煙のような、わかりやすい交絡因子が、いつもあるとは限らない点だ。交絡因子が不明な場合や、複数の交絡因子が複雑に結果に影響を及ぼすことが、よく見られる。このため、疫学の因果関係の検討には、交絡因子の考察が欠かせないものとなる。
 
これは、何も、疫学に限った話ではない。日常の社会では、ある現象と、ある事件を結び付けて、論じられることが多い。その際、拙速に因果関係が導き出されてしまうこともある。このようなときは何か交絡因子が影響してはいないかと、疑ってかかることも必要と思われるが、いかがだろうか。
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