消費税における軽減税率の効果-景気安定化の観点からの検討

2017年05月09日

(日本大学経済学部教授 小巻 泰之)

■要旨

日本では再三再四にわたり消費税率の引上げが延期されている。この背景には1997年及び2014年に実施された過去2回の消費税引き上げで日本経済が大きな影響を受けたことがあるとみられる。一般的に、消費税の変更は実質購買力を減少させる(所得効果)ほか、異時点間の代替効果(いわゆる駆け込み需要とその反動減)を発生させることが考えられる。異時点間の代替効果については、通じてみれば経済学的には影響はないとみなされているが、現実には、異時点間の代替効果は大規模に生じ認知ラグなどを通じて在庫調整を引き起こすなど、経済に大きな影響を与えてきた(小巻(2015))。

他方、欧州では、付加価値税(Value-added Tax、以下VAT)変更後には、異時点間の代替効果は発生していないと指摘されている(森信(2012)など)。異時点間の代替効果が経済活動に影響を与えるのは日本独自のものであろうか。本論では、欧州におけるVAT変更の効果をもとに、消費税率引き上げの影響を検討する。欧州では税制の基本構造など多くの点で日本とは異なるが、ここでは軽減税率のみに焦点を当てて考える。

■目次

要旨
1――はじめに
2――消費税増税における消費への影響
  2.1 一般的な影響
  2.2 税率変更前後における価格転嫁の影響
3――欧州におけるVATの変更の影響について
  3.1 欧州のVAT
  3.2 欧州におけるVAT変更前後の消費動向
4――欧州におけるVAT税率変更の効果(実証分析)
  4.1 モデル
  4.2 データ
  4.3 推計結果
5――軽減税率未実施の国での異時点間の代替効果
  5.1 デンマーク
  5.2 1979年のイギリスの例
6――まとめ
参考文献
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