地域医療構想と病床規制の行方-在宅医療の体制づくりが急がれるのは、どのような構想区域か?

2017年04月24日

(篠原 拓也) 保険計理

4|必要病床数の推計は、病床機能報告制度結果と比較される
上記の7.と8.のプロセスで、必要病床数の推計結果と、病床機能報告の結果が比較される。

なお、2015年6月には、各都道府県による地域医療構想の策定の取り組みに先立って、「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」(以下、「調査会」)が、2025年の必要病床数の推計結果を115万~119万床程度と公表した。これは、病床の機能分化等をせずに高齢化を織り込んだ場合の152万床程度と比べて、少ない結果であった。この結果は、一部のメディアで、病床の削減目標として取り上げられ、医療関係者を中心に波紋を呼んだ。実際には、あくまで参考値に過ぎない。
 

4――構想された病床体制と、現状の病床の比較結果

4――構想された病床体制と、現状の病床の比較結果

2017年3月までに、都道府県の地域医療構想が出揃った。これをもとに、病床数を比較してみよう。

1|国全体では、高度急性期・急性期の一部を回復期に振り替え、慢性期病床を減少させる
各都道府県の報告書をもとに、必要病床数を集計した。高度急性期と急性期が合計で24万床減少、回復期は24万床増加となった。即ち、高度急性期・急性期を、回復期に振り替える内容となっている。慢性期については、7万床の減少となっている。在宅医療等の患者数は、病床数合計の1.5倍となる。介護施設や高齢者住宅を含めて、在宅医療等へのシフトを進めていくことが必要と言える。
なお、上記の集計は、調査会の公表内容とほぼ同じ結果となっている。これは、都道府県が推計の際に、国から提供された「必要病床数等推計ツール」を用いているためであり、当然の結果と言える12
 
12 調査会が公表した推計では、療養病床の入院受療率の地域差を縮小させるためのパターンA~Cについて、それぞれ推計値を示している。上記の集計結果は、地域差縮小が一番緩やかに進むパターンCのものと、ほぼ同じ水準となっている。
2|大都市型と過疎地域型で必要病床数と在宅医療等のギャップが大きい
次に、構想区域を、大都市、地方都市、過疎地域に分けて、それぞれの病床体制を見てみよう。全国341の構想区域を、人口と人口密度により、大都市型、地方都市型、過疎地域型に分類する13
大都市型は、高度急性期、急性期、慢性期の減少よりも、回復期の増加が大きく、全体の病床数は増える。在宅医療等の患者数は、病床数の1.6倍となる。在宅医療等へのシフトが必要と言える。

地方都市型は、回復期の増加よりも、高度急性期、急性期、慢性期が大きく減少。この結果、全体の病床数も減少。在宅医療等の患者数は、病床数の1.3倍となる。入院患者数の減少が必要と言える。

過疎地域型は、回復期の増加よりも、急性期、慢性期が大きく減少。全体の病床数も減少する。在宅医療等の患者数は、病床数の1.5倍。入院患者数の減少と、在宅医療等へのシフトが必要と言える。
 
13 人口100万人以上または人口密度2,000人/km2以上を大都市型、大都市型以外で人口20万人以上または人口密度200人/km2以上を地方都市型、それ以外を過疎地域型とした。なお、人口と面積は、「平成22年 国勢調査」(総務省統計局)による。
 

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

病床規制は、構想全体の一面に過ぎない。しかし、従来、病床規制によって、医療の実態(サービスの量や質)が決まってきた経緯もある。特に、この構想では、大都市や過疎地域で、在宅医療等へのシフトが求められることが示唆されている。今後、介護施設や高齢者住宅を含めて、在宅医療の体制づくりを加速させる必要があろう。引き続き、構想実現に向けた取組みに、注目が必要と考えられる。
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