介護の国際数量比較-日本の介護は、他国よりも優れているのか?

2017年04月10日

(篠原 拓也) 保険計理

4日本は、居宅介護サービス利用者の割合が主要国の中位程度
次に、居宅での介護について見てみよう。日本は、OECDの統計には、最近のデータがない。そのため、やや古いが、2006年のデータを参照して、他国との比較をせざるを得ない。このデータを見る限り、日本は、中位に位置すると言える。居宅介護は、スイス、スウェーデン、オランダで、利用者割合が高い。一方、アメリカは、他国よりも低い水準となっている。

各国とも、今後、高齢化が本格化し、要医療・介護期間の高齢者が増加していくと見られる。そうなれば、介護施設への入居だけでは足りず、居宅での訪問介護等を充実させることが必要となろう。各国とも、居宅介護サービス利用者の割合を延ばしており、居宅介護の充実に向けた取り組みを進めているものと言える。
5日本は、介護施設のケアワーカーが少ない
続いて、介護資源の比較を行う。まず、介護施設のケアワーカーを比べてみる。ケアワーカーは、看護師と介護職員とに分けることができる。日本は、主要国に比べて、介護施設で介護サービスを提供する職員の数が少ない。特に、看護師が少ない。これに対して、アメリカは、介護施設のケアワーカーが多い。看護師が、その半数以上を占めている。ヨーロッパでは、スイス、デンマーク、オランダのケアワーカーが充実している。
6日本は、居宅介護のケアワーカーが充実している
次に、居宅介護のケアワーカーを見てみよう。居宅介護では、日本の職員の数が多い。内訳を見ると、介護施設と同様に看護師が少ない反面、多くの介護職員が居宅介護を支えている様子がうかがえる。オランダは、職員数が多い。デンマーク、スイス、アメリカは、居宅介護のケアワーカーの増員を進めている。フランスは、2002年の古いデータではあるが、居宅介護の介護職員の数が少ない。
7日本は、介護施設の床数が主要国の中位並み
最後に、介護施設の床数を比較する。日本は、主要国の中位に位置している。スウェーデン、スイス、ドイツ、オランダは、床数が多い。一方、イタリア、アメリカは、床数が少ない。

4――おわりに (私見)

4――おわりに (私見)

以上の比較から、得られた内容を振り返ると、次のとおりとなる。
 
(健康状態)    
 介護期間 : 日本は、欧米主要国に比べて、潜在介護期間が短い
(介護制度)    
 支出 : 日本は、高齢化により介護支出が増加しており、主要国の中位まで上昇
 利用状況(施設) : 日本は、介護施設の入居者割合が、主要国の中位に位置
   〃  (居宅) : 日本は、居宅介護サービス利用者の割合が主要国の中位程度
(介護資源)    
 スタッフ(施設) : 日本は、介護施設のケアワーカーが少ない
   〃  (居宅) : 日本は、居宅介護のケアワーカーが充実している
 設備 : 日本は、介護施設の床数が主要国の中位並み
 
これらのことから、日本の介護について、次のように、まとめることができる。

・日本は世界トップクラスの長寿を誇っており、これまで潜在介護期間は短かった。
・支出や利用状況の面は、これまで主要国の中位並みだったが、近年、支出が増加しつつある。
・スタッフ面は、施設の職員が少ない反面、居宅介護の従事者は充実している。
・設備面は現在、主要国の中位並みだが、今後、75歳超の高齢者が大量に出現し、介護が本格化するため、介護体制の整備と、更なる効率化を図ることが不可欠、と考えられる。
 
なお、前述の通り、介護の国際比較を行うにあたり、統計を用いて定量的に見るだけでは、不十分である。本来は、統計とともに、医療や年金等を含めた社会保障制度全般について、これまでの歴史・経緯や、今後の制度変更の見通し等を、併せ読む必要があろう。引き続き、多面的な国際比較を行い、それを踏まえて、今後の介護制度のあり方について、議論を重ねていく必要があるものと考えられる。
 
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