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男性の育児休業取得に対する主な阻害要因は「意識」と「働き方」
男性の育児休業については既にいくつかの貴重な研究が蓄積されている
2が、こうした研究においても、取得を阻害する要因として「意識」や「働き方」の問題があげられることが多い。
意識面の阻害要因としては、まず、男性の育児休業取得に対して、周囲の理解が得られにくいという点があげられる。経営者や管理職が男性の育児休業の必要性を理解できていなければ、部下の男性従業員の育児休業取得を熱心に支援するとは考えにくい。特に、男性の育児休業に対する職場の支援体制を整えるうえでのキー・パーソンである管理職が、男性の育児を肯定的に捉えられなければ、周囲の従業員から理解を得ることも難しくなってくる。
次に、男性従業員自身の意識のなかにも、育児休業取得の阻害要因が潜んでいる。すなわち、「自分だけが育児休業を取得すると周囲から冷たい目で見られるのではないか」「せっかく築いてきた企業のなかでの地位やキャリアに傷がつくのではないか」「休業中に収入が途絶えることに対して、家族の理解が得られないのではないか」といったような、男性従業員自身の不安意識が、育児休業の取得を阻害している。
働き方の面での阻害要因としては、長時間労働と低い有給休暇取得率があげられる。長時間労働についてみると、たとえば育児休業の対象が多く含まれるであろう30・40歳代の男性の2割弱(各17.0%、16.9%)が週60時間以上働いている(内閣府『男女共同参画白書』(2015年版)、総務省「労働力調査」(2014年)より)。
厚生労働省「就労条件総合調査」(2015年)をみると、男性の場合、年次有給休暇の平均付与日数は年間18.7日であるが、平均取得日数は8.4日、平均取得率は44.7%にとどまっている。多くの企業で年次有給休暇の繰り越しが認められているので、短い期間の育児休業取得であれば、わざわざ育児休業をとらずとも、有給休暇で充当できるケースが少なくない。男性の育児休業取得が有給休暇の消化の先にあるとすれば、育児休業取得率の上昇に向けた道のりはまだ長い。
このように、労働時間の短縮や有給休暇の取得がなかなか進まない背景には、職場全体の業務の進め方が、長時間働く、休暇を取得しないという前提で成り立っていることがある。そういう職場で育児休業を取得することは、職場全体の流れを乱し、職場全体の生産性を低下させるマイナスの行動と捉えられ、周囲の理解や支援を得られない懸念が大きい。このような働き方が、職場全体の生産性という観点から、必ずしもベストだといえないにもかかわらず、である
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2 代表的なものとしては、ニッセイ基礎研究所(2003)『男性の育児休業取得に関する研究会報告書』(厚生労働省委託調査)、佐藤博樹・武石恵美子(2004)『男性の育児休業-社員のニーズ、会社のメリット』(中公新書)、ニッセイ基礎研究所(2008)『今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査研究報告書』(厚生労働省委託調査研究)、こども未来財団(2011)『父親の育児に関する調査研究-育児休業取得について』、武石恵美子・松原光代(2014)「3章 男性の育児休業-取得促進のための職場マネジメント」佐藤博樹・武石恵美子編『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(東京大学出版会)等があげられる。
3 長時間労働の問題はさまざまな観点から問題提起がなされており、政府の「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」や「働き方改革実現会議」等において、労働時間の上限規制等についての検討が進められているところである(2017年1月末現在)。