3月15日に議会選挙を予定するオランダでは自由党が第1党の地位を保つ。自由党による単独政権の樹立には至らないにせよ、政権入りの可能性は考慮せざるを得なくなっている。自由党が政権政党になったとしても、主流派との連立という形であれば、EU離脱を国民投票で問い、かつ、それを実行に移すということはないだろう。
4月23日に第1回投票を予定するフランスの大統領選挙も、ここまで「想定外」続きだ。右派の統一候補としてフィヨン元首相が選出されたのも「想定外」だったが、選出後は最有力候補として期待されていたフィヨン氏に政治資金不正疑惑が発覚し、立候補の取り下げを余儀なくされる可能性が浮上したことも「想定外」だ。さらに、左派の候補としてバルス前首相ではなく、アモン前国民教育相が選出されたのも「想定外」と言えるだろう。アモン氏は、中道色を強めてきた社会党の中で、左派的傾向が強い。社会保障制度を見直し、18歳以上の全国民を対象に日本円で毎月9万円相当を支給する「ベーシック・インカム」の導入を提唱していることでも注目を集めている。
フランス大統領選挙の世論調査では、極右の国民戦線のマリーヌ・ルペン候補がトップを走り、アモン氏の伸び悩み、フィヨン氏の失速で、エマニュエル・マクロン元経済・産業・デジタル相が第2位につける。マクロン氏は、昨年4月に「右派でも左派でもない政治運動」として「前進!」を立ち上げ、8月に閣僚を辞任、秋には大統領選挙に独立系候補として立候補する方針を表明していた。右派と左派の双方から支持を集めており、アモン氏の支持を表明していないオランド大統領もマクロン氏を支持しているとの見方がある。
これまで、フランスの大統領選挙の結果について、「ルペン候補は確実に決戦投票に残るが、決戦投票では、極右の大統領を阻止するため、左派と右派が選挙協力をして、残った候補の支持に回るので、ルペン候補は勝てない」という見方で一致してきた。ところが、二大政党制のフランスの大統領選挙で、二大政党の候補がどちらも決選投票に残れないとなれば、やはり「想定外」と言わざるを得ない。
仮に、ルペン対マクロンという決戦投票の組み合わせとなった場合、世論調査に基づけば6対4でマクロン氏が勝利する。右派でも左派でもないマクロン候補であれば、独立系でも、ある程度、二大政党の支持者の受け皿となり得ると見て良いのかもしれない。
しかし、ルペン候補は、先代の党首である父親の時代の「極右」のイメージ払しょくに務め、社会保障の充実、雇用・社会保障のフランス人優先を掲げる。「極右の候補だから」ルペン氏に投票するのではなく、「繁栄から取り残された人々に目を向けてくれる候補だから」という理由でルペン氏に票を投じる人々が「想定を超える」可能性は、やはり捨てきれない。世論調査も間違うというのが、英米の波乱の結果からの教訓だ。
ルペン氏は、2月5日に公表した大統領選挙の144にわたる公約のトップに「EUとの間で加盟条件について協議し、EU離脱の是非を問う国民投票を行なう」を据えた。英国のキャメロン前首相が15年の総選挙時に掲げたのと同じ公約だ。ただ、フランスで、EU離脱の国民投票という公約を実行に移すには、憲法の改正が必要であり、そのためには憲法改正案が上下両院で可決されなければならない。国民議会(下院)選挙は、大統領選挙後の6月に実施されるが、国民戦線が過半数を獲得する可能性は「ゼロ」といって良い。任期6年、3年ごとに国会議員、地方議会議員等による間接選挙で半数を改選する元老院(上院)で勢力図が大きく変わるまでには時間が掛かる。ルペン大統領が誕生した場合、市場は激しく反応する可能性はあるが、ただちにEU分裂につながる訳ではない。
オランダにおける自由党の政権参加、フランスにおけるルペン大統領の誕生、イコールEU離脱のドミノとはならない。トランプ大統領の米国と同じく、政治制度や憲法は、成熟した民主主義国家であるオランダやフランスにおいても、一定の歯止めとしての役割を果たすことになる。
米新政権との関係はEUを離脱する英国にとり諸刃の剣という面も