EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(4)-EIOPAの報告書の概要報告-

2017年02月06日

(中村 亮一) 保険計理

4―今回の報告書に対する関係団体等からの反応

今回の報告書を受けて、関係団体等がコメントを公表しているので、この章ではその内容を報告する。

1|EIOPA会長のコメント
EIOPAのGabriel Bernardino会長は、「今年のEIOPAストレステストの結果は、現在のマクロ経済環境によってトリガーを引かれた欧州保険業界の重大な課題を確認した。ソルベンシーIIの枠組みの実施後に初めて実施された2016年の保険ストレステストは、特定の監督上の注意を必要とするセクターの脆弱性を『高解像度』で示している。EIOPAは、監督されている会社の存続可能性を脅かす可能性のある状況への協調的な対応を確実にするため、NSAsの勧告の実施状況を綿密に監視する。」と述べている。

さらに、「移行措置が適用されるのは新契約に対してであり、既契約は問題であるが、移行措置がその仕事をしている。」「問題を抱えている会社に対しては、最近公共レベルで議論している再建と破綻処理の枠組みを整備する必要がある。」と述べている。

2|Insurance Europe(欧州保険協会)
欧州の保険業界団体であるInsurance Europeは、今回のストレステストの結果報告を受けて、2016年12月15日に声明を発表している。これによると、以下の通りとなっている。

Insurance Europe のOlav Jones副事務局長は、全体的に示されている耐性力を考慮すれば、推奨される監督行動のリストには困惑している、と表明している。

Jones氏は、「ソルベンシーIIは、資本、リスク管理、ガバナンスという保険会社が満たす必要がある厳格な要件の面で非常に高いバーを設定している。監督当局は、既に、特定の問題を持つ企業を特定し、監視し、必要に応じて、行動を取ることを保証するために、広範囲な報告と介入権限を有している。」「ストレステストのシナリオの下で、これらのリスクにさらされている保険会社が彼らの余剰資産の減少を見るのは論理的である。これは脆弱性ではなく、そうなるようにワークしているシステムであり、Insurance Europeは勧告された監督行動の長いリストに困惑している。これらの結果を、保守的な測定値をもたらすソルベンシーIIの負債の計算方法から生じる追加的な保護層との関連で、見ることが重要である。」と述べている。

EIOPA 2016ソルベンシーIIのストレステストへの反応

2016ソルベンシーIIストレステスト結果の欧州保険年金監督局(EIOPA)の発表に続いて、Insurance Europe のOlav Jones副事務局長は、以下のように述べた。

「このテストの結果は、現在の超低金利状況のベースラインの下で、保険業界が、全体としてほぼ200%のソルベンシーで非常に高い資本を有していることを示している。これは、既に、金利が今後20年間、現在の非常に低いレベルで推移したと仮定して計算される。全体のサンプルの0.02%のみが、ソルベンシー資本要件として知られている既に強力な目標資本水準以下にあると報告された。

非常に厳しいストレスシナリオ下で、業界は非常に耐性のあることを示している。EIOPAは、「ダブルヒット」シナリオの下ではサンプルの40%だけが彼らの余剰資産の3分の1以上を失うことになり、「長期低利回り」のシナリオの下ではサンプルのわずか16%が余剰資産の同様の量を失うことになると報告している。

ソルベンシーIIは施行して丁度1年未満でしかないが、それは保険会社が満たす必要がある厳格な要件の面で非常に高いバーを設定している。これは、低金利や保険会社の投資の価値の減少のための資本要件に加えて、保険会社がさらされているその他の全てのリスクを含んでいる。ソルベンシーIIは、また、厳格なリスク管理とガバナンス要件を含んでいるので、経営が早期に必要な行動を取ることができる。さらに、監督当局は、特定の問題を持つ企業を特定し、監視し、必要に応じて、行動を取ることを保証するために、広範囲な報告と介入権限を有している。

加えて、EIOPAが既に述べているように、これらのストレステストは「合否」テストではなかったことを強調することが重要である。このテストに参加した会社は、業界のわずか60%であり、カバーされなかった40%は、低金利の影響を受ける可能性が低い損害保険とユニットリンク型契約を含んでいる。そのようなものとして、もし業界全体が含まれていたならば、示される全体的な耐性力のレベルはさらに高かっただろう。

このようなリスクからお客様を保護することが保険会社の中核的な役割である。負債を超える余剰資本を保有する目的は、保険会社がリスクを吸収できるようにすることにある。したがって、それはストレステストのシナリオの下で、これらのリスクにさらされている保険会社が彼らの余剰資産の減少をみるのは、論理的である。これは脆弱性ではなく、そうなるようにワークしているシステムであり、Insurance Europeは勧告された監督行動の長いリストに困惑している。これらの結果を、保守的な測定値をもたらすソルベンシーIIの負債の計算方法から生じる追加的な保護層との関連で、見ることが重要である。」

3|ドイツの監督当局BaFinの反応
今回のストレステストでは、ドイツのように、顧客に固定された長期保証を提供する保険会社を有する国に焦点が当てられた。

ドイツの監督当局BaFinは、今回のストレステストの結果公表を受けて、2016年12月15日に、そのWebサイトで結果等の公表を行っている。

その中で、保険監督担当のチーフエグゼクティブディレクターのFrank Grund博士は、ドイツの保険会社が長期低利回りシナリオに対して、欧州の平均と比較して、著しく敏感であったことは「全く驚くべきことではない」「結果は、問題となっているリスクに対するドイツの生命保険会社の脆弱性についてのBaFinの評価を確認している。私たちは、この点について十分に準備ができている。」と語っている。

BaFinの公表内容は、以下の通りである。

ストレステスト:EIOPAは、2016年の結果を公開

EIOPAは本日、保険事業のための2016年欧州ストレステストに関する最終報告書を公表した。ストレステストは、ドイツと欧州全体の両方で事業展開している、特に長期間の低金利にさらされている重要な保険会社が関与した。

「結果は、問題となっているリスクに対するドイツの生命保険会社の脆弱性についてのBaFinの評価を確認している。私たちは、この点について十分に準備ができている。」と、BaFinの保険監督のチーフエグゼクティブディレクターのFrank Grund博士は説明している。

インデックスリンクとユニットリンク型契約を除く技術的準備金に基づいて測定された市場の約75%を占める20のドイツの生命保険会社が、ストレステストに参加した。EIOPAの要件に従って、ドイツの参加者の選択は、小中規模及び大規模な生命保険会社が含まれた。

システミック・リスクの特定と評価

EIOPAのストレステストの結果は、非常に不利な市場動向から生じる保険業界にとっての考えられうるシステミック・リスクの識別と評価を支援することを意図している。テストから引き出すことができる結論に関しては、「EIOPAのストレステストは、脆弱性分析として設計されており、合否テストを構成していない。」と報告書は強調している。そのため、ストレステストの結果は、個々の事業に焦点を当てておらず、自己資本に対する追加の規制要件にはならない。

全ての計算の基礎は、2016年1月1日の基準日におけるソルベンシーIIの貸借対照表だった。ストレスの影響を評価するために、EIPOAは、資産及び負債の変動を考慮する。「ダブルヒット」シナリオでは、ドイツの参加者の資産及び負債の価値は、それぞれ8.6%と6.0%低下する。「長期低利回り」シナリオの場合、資産が7.2%増加し、負債は11.5%増加した。したがって、両方のシナリオが自己資本にマイナスの影響を与える。予想されたように、長期低利回りシナリオでは、関与したドイツの会社の感応度は欧州平均より高い。

BaFinの評価が確認された

長引く低金利環境に対するドイツの生命保険業界の感受性や脆弱性を視野に、結果は、近年、そのBaFinによる調査で得られた評価を確認している。Grund博士は、「特に、2016 EIOPAストレステストは、関与したドイツの生命保険会社が、欧州の平均と比較して、長期低利回りシナリオに対して、著しく敏感である、ことを示している。」と述べ、「これは全く驚くべきことではない。」と付け加えた。

BaFinと議会は、これに対して、適切に会社のリスク負担能力を増加させることを目的としたターゲットを絞った対策で早期に反応した。これは、取り分け、2011年におけるZinszusatzreserve(低金利環境に対応して導入された保険料準備金に対する追加責任準備金)と、2014年におけるドイツ生命保険改革法(LVRG生命保険改革法)の制定を含み、新契約に対して許容される最高責任準備金評価利率の引き下げを繰り返してきたことで、最近では2017年1月1日から0.9%へ引き下げられたことが含まれる。

全ての会社に影響を与えるこれらの措置に加えて、BaFinは、特に長期の低金利環境に影響を受けている保険会社を、近年強化された監督下においてきた。そうすることで、裁量的な給付が期限内に引き下げられ、会社の資本が強化されたことを確認するための特定な努力を行ってきた。総株式およびハイブリッド資本は、このような利益の保持によって、2000年の66億ユーロから2015年の181億ユーロへと増加した。2014年から2015年にかけては、これらの項目は33億ユーロの大幅な増加を記録した。

背景

ストレステストは、移行措置と長期保証措置を考慮に入れたソルベンシーⅡの評価基準に基づいて行われた。参加している会社は、1つのベースラインシナリオと2つのストレス・シナリオ(「長期低利回り」と「ダブルヒット」)の計算を実行しなければならなかったほか、定性的な質問に答える必要があった。ベースラインシナリオでは、ソルベンシーIIの下での1日目報告(Day 1 reporting)におけると同様の仮定が適用された。

長期低利回りシナリオでは、EIOPAは歴史的な低水準を考慮した、関連するリスクフリー金利の期間構造を再計算した。このように、シナリオは、金利への即時のショックとして適用された。また、曲線の補外部分は、2.0%の終局フォワードレート(UFR)を使用して、補外された。変化しないUFRが長引く低金利環境の基礎となる前提に対応していないことから、4.2%のUFRを規定している現在のソルベンシーII評価の枠組みからの乖離が行われた。

ダブルヒットシナリオは、事実上何らの発行者ももはや安全な避難所とは考えられないとの暗黙の前提の下で、事実上全ての投資種類の価格の低下とさらに低いリスクフリー金利の組合せを含んでいる。長期低利回りシナリオと同様に、ダブルヒットシナリオは、即時のショックで適用される。ダブルヒットシナリオでは、リスクフリー金利の変化と信用スプレッドの変化が切り離された。最高の信用の質を有する国債を含めて、全ての信用スプレッドの同時増加に伴うリスクフリー金利の低下、株式、不動産、他の投資種類の価格の大幅な低下は、これまでのところ、歴史的に観察されていない。

選択されたキャリブレーションは、このように「パーフェクトストーム(複数の悪いことが同時に起こる最悪の事態)」のシナリオ、すなわち非常に稀で、不利な条件の合併として表現することができる。

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